課題解決のためのUI/UX

社内システムのUXを考える--日常業務のUXを重視して設計

綾塚祐二

2019-04-15 07:00

 多くの日本企業では、独自の業務システムが日々使われている。もちろん、市販のパッケージ製品をそのまま使っている会社もあるだろうし、市販品に手を加えているパターンもあるだろう。アプリケーションの他にも、独特の帳票や書類を作成しているという例も多いのではないだろうか。

 大量に存在するであろうこうした社内独自のシステムやフォーマットに関して、「うちの会社のシステムはとても使いやすい」という声はあまり聞こえてこない。どちらかというと「使いにくい」という不満の方が多い。すなわち、良くないユーザーエクスペリエンス(UX:ユーザー体験)になってしまっていると推測される。

 日々の業務で使われる社内システムのUXの改善は、直接的あるいは間接的に業務効率などに影響を与えるため、その効果も大きいはずである。だが、それを考慮して社内システムを設計したという話をほとんど聞かない。今回はその辺りの問題を考えてみたい。

「慣れ」の壁

 UXを考慮したデザインを行うためには、システム設計の初期の段階から慎重かつ入念に、その利用状況を想定、想像する必要がある。またその作業はデザインを中心に据えなければならない。しかし、業務システムを設計する際、その多くは「既存システムやまだIT化されていない業務フローをいかに変えずに移行するか」を優先して考えてしまいがちである。

 人は慣れたものを好み、慣れたやり方(特に長年にわたって毎日欠かさずに繰り返してきたやり方など)を変えるのを(慣れによって得られるメリット以上に)嫌うものである。しかも、業務システムのように閉じた環境で多くのユーザーが使うものであれば、その分、慣れの慣性も大きくなる。

 それ故、事前にヒアリングやインタビューを実施しても、多少の不満点は出てくるとしても、大きな変更や根本的な変化にはあまり賛意が示さないことが多い。また、「“ユーザー視点”の誤解を解く--ユーザー行動と未来の想像」でも述べたように、ユーザーはUI(ユーザーインターフェース)やUXの専門家ではないため、直接的かつ適切な要望やコメントを出せるとは限らない。そのため、既存の業務フローに潜む本質的な使い勝手の問題があっても、それらを簡単には見つけ出せないのである。

 そうした理由により、「既存の業務フローをなるべく変えずに移行する」という傾向が強くなり、ときには本質的な改良を試みてもその良さを潰してしまったり、ちょっとした歪み(ひずみ)が出てきてしまったりする。それらは結局、ユーザーの手間や負荷を増やすことになるのだが、「他人の手間や負荷はコストではない」と無意識に思い込んでいる人たちもまだまだ多い。加えて、売り上げやコストに直接結び付くわけではないので、往々にして軽視されがちである。

 そうした事態を避けるため、UXを考慮したデザインの可能な人材が、業務システムの設計段階からきちんと関わるべきである。そして、ユーザーの細かな手間の増加や使い勝手の悪さ(=UXの悪さ)が積み上がると、大きな無駄になってしまうということをきっちりと認識すべきである。

フィードバック集めの難しさ

 UXを考慮したデザインや開発プロセスにおいては、ユーザーからのフィードバックも重要である。ユーザーに試してもらって意見を聞いたり、使っている様子を観察したり、リリース後もユーザーの声を聞きたりしながら、常に改良していかなければならない。しかし、業務システムは、消費者向けシステムと比べてフィードバックを集めにくいという特性がある。

 消費者向けのシステムであれば、ユーザー側にも選択肢がある。使いにくければ「使わない」ということも可能だ。システム提供側の改善に対するモチベーションは高く、ユーザー側も不満点を挙げることに抵抗は少ない。

 一方、業務システムの場合は、(大きな組織になればなるほど)ほとんどのユーザーには選択肢がなく、決められたシステムを使わざるを得ない。システムを設計する側も、ユーザーの要望をいろいろと聞くものの、そのシステムを使うことをユーザーに選んでもらう必要はないので、消費者向けシステムほどユーザーの感覚に踏み込むことはない。

 また、社内の業務に関することなので、不満点を外部に漏らすことは許されず、内部でも「おおよそみんなが使いづらいと思っているけれど、あまり表立っては語られない」という状況に陥りやすい。

 人の「慣れる」能力は高いため、使いにくいシステムであっても使い続けていると、(効率の悪さなどを意識せずに)ある程度は使えてしまう。新しく組織に入ってきて、初めてそのシステムを使用する場合でも、たいていは周囲に使い慣れた人がいるので、分からない点や困惑する点はすぐに聞くことができる。そのため、システムの使い方を分かりやすくする、マニュアルを整備するなどのモチベーションも上がりにくい(そうしているうちに「知っている人に聞かないと分からない」という属人的なシステムになっていく)。

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