アームは4月4日、都内で報道機関向けの説明会「Japan Media Day」を開催した。同社のさまざまな事業に関する動向が紹介され、本稿ではサーバー向けプロセッサーを含むインフラストラクチャー分野に関する最新の取り組みをレポートする。
クライアント向け製品戦略を説明した英Armマーケティングプログラム担当バイスプレジデントのIan Smythe氏は、2018年秋に発表した同社のサーバー向けプラットフォーム「NEOVERSE」に関し、その後の数カ月で業界各社からの広範な支持を集めつつあると語った。
Arm マーケティングプログラム担当バイスプレジデントのIan Smythe氏
Amazon Web Services(AWS)は、2018年秋に、「性能とコストに最適化されたスケールアウト型のワークロードに最適」とうたう「EC2 A1インスタンス」を発表しているが、ここで使われる「AWS Gravitonプロセッサー」は、ARMコアを用いた独自開発のプロセッサーとされており、NEOVERSEコアが採用されているという。
また、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)の分野では、日本の理化学研究所 計算化学研究センターが開発中のスーパーコンピューター「京」の後継機(ポスト「京」)のプロセッサーとして富士通が開発した「A64FX」も、NEOVERSEの採用例として紹介された。
理化学研究所のポスト「京」システムと富士通のA64FXに関するArmの説明(出典:Arm)
実際には、A64FXの発表に先行して2018年8月に発表された。その時点では、Armv8-A命令セットアーキテクチャーをスーパーコンピューター向けに拡張するSVE(Scalable Vector Extension)を“世界で初めて採用したCPU”と説明され、SVEの開発は富士通とArmのパートナーシップに基づいて行われたとされている。
またSmythe氏は、NEOVERSEが「NEOVERSE N1 platform」と「NEOVERSE E1 platform」の2種類に分かれることも明らかにした。N1がパフォーマンス指向、E1はスループット指向と理解して良いだろう。処理性能だけに注目すれば、N1の方がE1よりも高性能ということになるようだ。
NEOVERSEプラットフォームのロードマップでは、今後は毎年アップデートが行われる予定となっている。現在の「Cosmos Platform(16/14ナノメートル:nm)」は、現行プロセッサーの「Cortex-A72/A75」に相当するとされており、次世代の7nmの「Ares Platform(Neoverse N1 Platform)」が2019年内のリリース予定とされている。タイミングから判断すると、クライアント向けで予定されている「Deimos」と同世代のプラットフォームと考えられる。
NEOVERSEプラットフォームのロードマップ。2019年の「7nm Neoverse N1 Platform」は、別のスライドでは「Ares Platform」というコード名で記載されている。現行の「Cosmos」から「Ares」で60%もの性能向上が実現されたという(出典:Arm)
続いて、2020年には「7/5nm+」とされる「Zeus Platform」が出てくる計画だ。これは、同じくクライアント向けの「Hercules」に相当する世代だろう。そして、2021年には5nmの「Poseidon Platform」が出てくる予定となっている。この世代に相当するクライアント向けプロセッサーの開発コード名はまだ明かされていないようだが、この差はクライアント向けプロセッサーを組み込んだ製品を開発するベンダーとサーバー、HPCベンダーの開発リードタイムの差を踏まえたものではないだろうか。
Armプロセッサーは元々、電力効率の高さを武器に、組み込み用途やIoT市場などで大きな存在感を発揮していたが、着実に性能向上を果たし、遂にHPC市場にまで至っている。プロセッサーの演算性能が向上するに伴って電力消費量の大きさが深刻な問題となり、データセンターなどでは冷却コストの増大や実装密度の低下といた悪影響も及ぼしていることを考えれば、まず電力効率の向上から実現したArmの戦略は間違ってはいなかったということになるだろう。
今後は電力効率を維持したままで、どこまで性能向上を実現できるのか興味深いところだ。
NEOVERSE E1 Platformの主な特徴。N1に比べ公開情報が少ないが、HPCなどの演算性能に特化した用途を想定していると思われるN1に対し、E1では5Gの基地局側システムなどの大量トラフィック処理を想定したスループット指向のプラットフォームになるようだ(出典:Arm)