一般的にデジタル化が遅れていると言われている製造業でも、IoTのデータやロボティックプロセスオートメーション(Robotic Process Automation:RPA)を活用し、積極的に業務効率の向上を目指す企業は存在する。2月にRPA大手ベンダーBlue Prismが開催した「RPA・デジタルワークフォースカンファレンス2019」で講演した荏原製作所はその1社だ。組織体制を変更し、顧客情報基盤の構築とRPAの活用で、オペレーションのデジタル化を実現させた。
安定成長がシステム刷新の足かせに…
風水力事業、環境事業、精密・電子事業を手掛ける荏原製作所。1920年創業の同社は、インフラや産業用装置の市場で高いシェアを誇る。特に風水力事業分野では市場の60%を占めており、世界16工場で年間90万台以上のポンプを製造している。
「来年で『100年企業』になるわれわれだが、老舗ならではの課題もある。100年間、ずっとシステムを運用してきた状態なので、社内では異なるシステムが点在していた。ただし、ビジネスは安定した成長を続けているので、システム刷新をはじめとする改革が難しい状態だった」
こう振り返るのは荏原製作所のグループ経営戦略統括部でデジタル化推進責任者を務める藪内寿樹氏だ。
荏原製作所 グループ経営戦略統括部 デジタル化推進責任者 藪内寿樹氏
荏原製作所は2017年度から2019年度の中期経営計画「E-Plan2019」において、構造改革による収益性改善を掲げた。その一貫として、2017年3月から営業機能を中心とした抜本的な改革を推進するプロジェクトをスタートさせている。
目的は、営業担当者が顧客に向き合う仕事に注力できる体制整備と、顧客へのサービスレベル向上につながる組織体制の強化だ。その背景には、顧客に対するサービスが属人的で、サービスレベルが不均衡だったことと、「紙の文化」が残っており、非効率な作業工で手間が取られていたことだ。
藪内氏は「国内標準ポンプ事業は、900人の社員が約70の支店で携わっていた。そのため、支店の中で独自の業務フローになっていたり、(業務フローの)マニュアルが存在せずに属人的なやり方で作業をしていたりといった問題が発生し、各支店が“ガラパゴス化”していた。こうした課題を解決するためには、有益な情報の蓄積とその情報を活用できる仕組みを構築することが必須だった」と、当時を振り返る。
改革推進するプロジェクトの大枠は、「業務の集中/集約化」からの「業務の標準化」だ。業務を集中/集約化して顧客情報基盤に基づく業務を標準化し、製品のライフサイクルに沿った情報活用を可能にする仕組みを構築していく。藪内氏は「事務処理を集中させることで、生産性と品質向上を目指した。一方、顧客や商談の管理と、それに伴う事務処理や情報蓄積の方法の統一で“ONE EBARA”の実現を目指した」と説明する。
体制整備後の業務のすみ分け。営業に必要な業務以外はすべて集約した