山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

ブラックホール画像の販売も--中国で問題視される素材販売サイトの実態

山谷剛史

2019-04-18 07:00

 世界で初めてブラックホールの姿を捉えた画像が4月10日に発表された。その翌日となる11日、映像や音楽の有料素材サイト最大手「視覚中国(Visual China Group)」がその画像データを800~3000元(1万2800~4万8000円)で販売していたことが明るみに出た。

 それだけで終わらなかった。中国国旗の画像データなどが素材として販売されていることも判明し、さらに注目を集めた。中でも国家や政府が関係することに触れたため、中国中央電視台や人民日報など権威あるメディアが一斉に指摘して騒ぎが大きくなった。例えば、中国共産党青年団のアカウントは、「国旗の版権も貴社が所有しているのですか?」と微博(Weibo)で視覚中国に指摘した。

 さらに、企業ロゴなどの素材も販売されていたことも問題視された。話題にこそならなかったが、同サイトでは、日本のさまざまなアニメコンテンツが素材化され、販売されている。

 11日には、「中華人民共和国網絡安全法」(中国サイバーセキュリティ法)や「互聯網信息服務管理方法」(インターネット情報サービス管理方法)の規定に違反しているとの理由から、天津市のインターネット担当部署「天津市互聯網信息弁公室(網信弁)」が視覚中国に指導を行った。

 それに伴い、深セン証券取引所の同社株は10%下落し、1日で同社の市場価値が20億元(約320億円)、2日で37億元(約592億円)下がった。視覚中国に続くシェアの素材サイトである「全景」や「東方IC」も、急いで内部審査したのか一時サイトにアクセスできなくなった。

 今回の事件をきっかけに、画像に関する著作権問題について分析するニュースが幾つも報じられた。例えば、北京青年報によると、視覚中国傘下の企業2社に対する裁判件数はそれぞれ4000件を超え、特に2018年は3348件と2017年の1831件から大幅に上昇した。その8割以上が著作権侵害による訴訟だったとしている。

 また裁判文書が収録されているウェブサイト「Openlaw」によると、視覚中国に関する訴訟は2018年で2968件、2017年で5678件となっている。1日当たりにして10件前後の訴訟があるわけだ。それ以前にも騰訊(Tencent)が、画像の所有者から無断使用で訴えられるニュースがあったが、これほど話題になり、業界全体の問題として扱われることはなかった。

 政府が動いた。国家版権局はネット浄化行動の最新計画「剣網2019」において、画像の版権保護を対象とすると発表した。また人民日報のウェブサイト「人民網」は、画像版権保護を強化すると発表。具体的には画像版権交易プラットフォームを構築する予定だとしている。まずは年内に素材サイトにメスが入り、多くの著作権を無視した画像が削除されそうだ。

 中国の著作権に対する意識の変化で思い出すのは、動画コンテンツの海賊版から正規版への移行のきっかけとなった2008年の北京五輪だ。当時国家的イベントの北京五輪の開会式で許可なく配信した業者が処分され、その後、版権意識が高まり、正規版コンテンツを配信するトレンドへと変化した。今回の視覚中国の問題はそれなりに目立つ形で長く扱われている事件であることから、多くの人の目に入ったことだろう。

 今後、版権意識が高まっていくと思われる。また、画像の著作権が正しく扱われることで、現在中国で人気の日本絡みの風景写真やアニメ画像やイラストなどが正しく取引されるようになる可能性がある。

山谷剛史(やまや・たけし)
フリーランスライター
2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。

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