このようにデータ戦略を構築した同社が目指したAIシステムの実現には以下の「4つの属性」が必要だという。
- “教育”を通じてアクションを学習できる
- “自然な表現形式”をサポート
- 主要な価値は“専門知識”
- 新しい情報やシナリオ、応答を“経験”することで推論のアプローチが進化し続ける
ここでいう“教育”は医学や保険、ビジネスプロセスといった専門知識を学べるAIを指す。特定分野に対して“専門知識”を備えることで「AIの価値が生まれる」(Bhandari氏)という。この発想はWatsonがチェスから始まり、料理のレシピや病理医学に特化して成長してきたことが背景にあると言える。
“自然な表現形式”については、HCI(Human Computer Interaction)と述べた方が理解しやすいはずだ。日本語や英語のように自然言語で応答性と関係性を向上させるのが目的だ。
そして“経験”の文脈は、AIが事例を通じて学習し、データや教師あり学習のようにフィードバックを重ねることで学習し続けることを指す。Bhandari氏は「だからこそAIシステムはパワフルである」と自社の方向性を示した。
「AIエンタープライズ・ブループリント」という呼称で説明したAI企業化への青写真は、IBM自ら築き上げたものである。前述の通り、IBMがショーケースとしてAI企業化を示す地図ともいえるが、課題として残るのはデータの所有権である。
Bhandari氏は「AIシステムが(企業の)意思決定に大きく関与するようになれば、知的財産となり得るだろう。企業のすべてを学んだAIシステムは信頼できるか、企業幹部も不安を抱えるかもしれない。サプライヤーも同様だ。原則として顧客のデータは皆さんのものであることを強調したい。データから得た洞察も顧客のもの。顧客所有権を大事する概念を構築している」とデータ活用に関する不安を払拭するための姿勢をつまびらかにした。
AIシステムの基盤となるのが「IBM Cognitive Enterprise Data Platform(CEDP) 2.0」である。ハイブリッドベースのマルチクラウドアプローチを採用し、オンプレミスやプライベートクラウド、パブリッククラウドを平行して利用。各サーバーに構築ししたデータプールだが、利用者からは単一のデータレイクとして使用できる。
IBMは現在、CEDP 2.0を社内でも活用しているが、その成果として1兆レコードの取り込み(前四半期100%増)やデータ照会を数秒間で実現、ビジネスプロセス全体のサイクルタイムが76%向上したという。

CEDP 2.0のアーキテクチャー