エリック松永のデジタルIQ道場

PRを経営に組み込め!--企業価値を高めるデジタル時代の「Neo-PR」とは

松永 エリック・匡史

2019-05-17 06:00

 PRと聞くと、皆さんは何を連想するでしょうか?「あ、広報ね。プレスリリースとか出したりする」――そんな反応をする方が多いのではないでしょうか。私は、あるコンサル会社でデジタル部門を立ち上げた時に、「PR=広報=僕らが変な発信をしていないかチェックする検閲部隊」のような印象を持っていましたし、華やかな広告の対極にある地味な存在のように感じていました。

 「PR=パブリックリレーションズ」の起源は諸説ありますが、第3代米国大統領のThomas Jeffersonが、選挙で「パブリック」と「リレーション」という2つの言葉を初めて組み合わせて使ったと言われています。1807年のことです。選挙では、国民や市民などの公衆としてのパブリックの一票で運命が決まります。ある一人のパブリックに一票を投じさせるストーリーを作るという重要な関係(リレーション)作りそのものをPRという言葉で示したと推測されます。

 選挙では候補者のストーリーがさまざまなメディアで展開され、たった一つの失言で多くの票を失うこともありますし、そもそも政治生命自体が失われることも珍しくありません。米国の選挙では、PRは要であり、リアルタイムで状況を把握し迅速に対応するために、パブリック・リレーションは大きな役割を担っています。だからこそ、ホワイトハウスではパブリックが認識する情報を収集し、解釈し、メディアに向けた情報発信を職務とする「報道官(White House Press Secretary)」は大統領の職務を補佐する重要な役職になっています。上から決まったことを伝えるのみに見える日本の広報官を考えると、政治の中でも日米のPRの位置付けの違いが明確です。

企業の顔としてのCEO

 Steve Jobsが亡くなってから8年が経とうとしています。彼が世界に与えた影響力は計り知れないものがありますが、Jobs亡き今でも「Apple=Steve Jobs」、そしてイノベーションというイメージを持つ人が多いのではないでしょうか。

 グローバルのビジネスでは、CEO(最高経営責任者)は企業の顔であり、企業のイメージを背負って立っています。PRを駆使し、CEOは企業のビジョン、戦略を自ら語り、パブリックを魅了していきます。自らのストーリーを自らの口で語り、いかなるメディアの発信も商品やサービスのメッセージも自らが登場しなくともCEOのメッセージに従っています。これが明確な企業ブランディングにつながっていくのです。

Appleの伝説は時代を変える強烈なPRから

 1984年、全米が最も注目するスーパーボールでAppleの伝説のCMは放映されました。このCMで描かれている世界は核戦争の後、思想が統制され、市民がオンラインで監視されている世界。実はこの世界、1945年に発刊された英国の作家George Orwellの小説「1984年」の世界観です。

 Appleは、その支配的な世界を、当時コンピューター業界を支配していたIBMに見立て、Appleを象徴する勇ましく走ってきた女性が大きなハンマーを巨大スクリーン投げつけ破壊するシーンでIBM帝国に支配されたコンピューターの時代が変わることを宣言しました。コンピューターユーザーの民主化、Macintosh誕生の瞬間です。市場を独占していた企業をダイバーシティーの象徴である女性が破壊するという刺激的な映像。これはAppleの姿勢を直球で伝えるまさにJobsの戦略そのものをパブリックに対してメッセージを発信したものです。

 ここまで社会に影響のあるメッセージとなると、社会からの批判やコンピューター業界、ユーザーからの反発も予想されたはず。しかし、そこを乗り越えCEOが発信したメッセージは、戦略そのもの。もちろんトップ自らが指揮し、コントロールしない限り実現は不可能だったでしょう。

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