日本テラデータの年次イベント「Teradata Universe Tokyo 2019」が5月22日に開催され、ユーザー事例セッションでは、日野自動車による講演「車両稼動情報を活用したサービスの取組」が行われた。本稿ではその概要をレポートする。
日野自動車 情報企画部推進グループ主管の松本兼司氏
日野自動車は、2017年から発売する大・中型トラック、大型バスに車載通信機を標準搭載し始めた。その背景には、「よい商品とトータルサポートをICTで深化させ、顧客貢献を目指す」(情報企画部推進グループ主管の松本兼司氏)といった理由がある。同社では、車載通信機から遠隔で取得した顧客の車両稼動情報を活用し、新たなサービス提供に乗り出した。
ここでは、GPSから取得した車両位置や時刻を、日野自動車が新規開発した車載ECU(電子制御ユニット)で記録し、同じく新規開発した車載通信機から3G/4G網を経由し、車両稼働情報として蓄積する。さらに、業務システムや各種情報源を重ね合わせたTeradataのデータ統合基盤を通じて後述するITサービスに活用してきた。同社は、このシステムを「準備」「蓄積」「アクセスおよび検証」の3フェーズに分類し、各フェーズでデータを保持する。段階的なデータクレンジングを通じて、不正データの除去や構造化、正規化し、クレンジングを経てアクセス制御を行っているという。
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一般的な乗用車に比べて積載量や使用年数、年間走行距離が大きく上回るトラックやバスは、「生産財のため頑丈さが求められる。顧客の安全と高稼働率を目指すことに注力」(松本氏)するため、予防整備を含めたサービス体制を用意することがこのシステムを導入する狙いだ。具体的には、2016年4月からデータ基盤の一元管理化やM2M(マシーン・ツー・マシーン)による車両動態データを取得するシステムの構築をスタート。2017年4月には、販売会社から顧客へのサービス提供を開始し、予防整備提案を実現した。同社は部品の交換時期予測の精度向上を目指して、「最適な予防整備を提供する」(松本氏)という。
数カ月ごとに定期点検や車検が求められるトラックやバスだが、「不調による突発入庫や路上故障は毎月約3800件も発生する」(松本氏)とのこと。車両の不調の兆しを検出し、定期点検や車検前の段階で予防整備を販売会社から提案できれば、予定外の修理入庫も軽減するだろう。利用者は故障修理やダウンタイムの削減となり、販売会社も入庫時の整備による売り上げ拡大や突発故障の減少による平準化といったメリットが発生する。
日野自動車では、部品交換時期を予測するため、市場の交換実績や設計しきい値に達するまでの回数、異常を検知するしきい値に補正値を掛け合わせた予測モデルを作成した。これを用いて、位置情報や故障コードのリアルタイム通知や、顧客用のウェブサービスに活用している。仮に路上で異常が発生した場合、連絡を受けたサポートセンターは状況を把握するため、「口頭で情報収集しなければならず10~20分は必要」(松本氏)になるが、データをもとに対応できるようにすることで、利用者は路上故障からの早期復帰、販売会社も出勤や入庫対応の効率化が可能になる。
日野自動車は、2019年4月に顧客サポートサービス「HINO CONNECT」の提供を開始した。利用者は同サービスのIDを取得することで、車両の安全装置作動状況や故障状態がメールで通知され、月次の燃費報告をウェブ経由で把握できる。また、ウェブサイト経由で車両の位置情報を取得できるため、荷物の積み替えなど運用の最適化も可能だ。
同社は、「普及組織や販社活用環境の整備、社内でのデータ活用といった業務面の課題が見えてきた。専任組織や販売会社業務の効率化、データ提供体制の整備を通じて検出項目の拡充を目指している」(松本氏)という。さらに、データ統合基盤から得たデータを製品のライフサイクルに活用し、設計段階から廃棄・リサイクルまでのあらゆるポイントでサポート活動を展開したいと説明した。現在は無償提供のため、今後は同サービスの収益化の道を模索するという。
日野自動車は「走行距離40万キロを超えるトラックもあれば、車外活動に従事するトラックもある」(松本氏)ため、車両活動の可視化も活用方針の一つと説明する