この実験のタイミングは、同クラブにとってチャンスだった。リアザーヘッドFCは、2018年の夏に混乱を経験していたからだ。同チームでは、選手が大きく入れ替わり、McCarthy氏を含む新たなマネジメントチームが任命されたところだった。同氏はAIを使った実験の可能性について初めて聞かされたとき、確信を持つことはできなかったと認める。
「私は、チームがAIをどう使えるかについても、どんなメリットがあるかについても懐疑的だった」と同氏は言う。「実際に試してみると、正しい方法で使えさえすれば、素晴らしいツールになることが分かった。われわれには対処が必要な人間関係の課題があり、このツールは選手へのフィードバックを選択する際の手助けに使われている」
McCarthy氏
提供:IBM/Ben Broomfield
Watsonは、2つの形でサッカーに関するビッグデータの分析に使われている。「Watson Discovery」は試合のレポートとソーシャルフィードを調べて情報を収集し、対戦相手を分析して、最近の試合に関する重要なポイント(例えば選手や戦術など)の最新情報を提供する。
一方「Watson Assistant」は、リアザーヘッドFCのスタッフや選手が自然言語を使って簡単な質問をし、詳細な情報を受け取るための対話型インターフェースを提供している。例えば、同クラブのストライカーによる最近の枠内シュートについて尋ねれば、IBMが試合中に録画したすべてのビデオクリップと、関連する主要なデータが自動的に提供される。
システムを開発したPavitt氏は、「AIは単なるブラックボックスではない」と理解することが重要だと述べている。AIを生かすには、パス成功率やタックル成功率などのファクトがなぜ重要なのかを教え込む必要があるという。こうした指標がパフォーマンスの改善につながることを、AIに教えてやらなくてはならない。
サッカーの専門用語も課題の1つだ。IBMは、Watsonに文脈に応じたサッカー用語(例えばコーナーキックやフリーキック)を覚えさせなくてはならなかった。McCarthy氏は、このシステムを使い始めた頃には問題もあったと述べている。「この技術を使い始めた頃には、用語が大きな問題だった。自分たちはこのツールに何をやらせたいかを知っていたが、Watsonはその言葉を理解できなかった」と同氏は言う。