バックアップやデータ保護製品で知られるAcronisは、現在では従来のデータ保護の枠にとどまらず、マルウェアやサイバー攻撃などからの防御を想定したセキュリティー機能も同時に提供する“サイバープロテクション”というコンセプトに基づくソリューションを展開している。こうした同社の取り組みについて、プロダクトおよびテクノロジーポジショニング グローバル ディレクターのAlexander Ivanyuk氏が、5月下旬のプレス向け説明会で語った。
Acronis プロダクトおよびテクノロジーポジショニング グローバル ディレクターのAlexander Ivanyuk氏
まず同社は、サイバープロテクションへの取り組みを「SAPAS」と呼んでいる。これは、「Safety(安全性)」「Accessibility(アクセシビリティ)」「Privacy(プライバシー)」「Authenticity(真正性)」「Security(セキュリティー)」の5つの単語の頭文字を組み合わせた造語だ。その上で同氏は、サイバープロテクションを「空気」「水」「食料」「住居」に次ぐ「人間の5番目の基本的欲求」だと位置付けた。デジタルトランスフォーメーションが進展し、現実世界のさまざまな局面でデジタル技術の活用が急速に一般化している現在、人間が普通に生きていく上で、サイバープロテクションが不可欠の要素となっているという認識である。
戦略の方向性(出典:アクロニス)
バックアップやデータ保護の技術は、インターネットの普及以前からあるもので、元々はネットワーク接続を必ずしも想定しない独立したシステムを対象に、ハードウェアの故障や人為的なミスに起因するデータ喪失に備えたものだ。
一方で現在は、サイバークライムと呼ばれる悪意ある攻撃によってデータ喪失が起こる例が増えてきている。典型的なものが、ランサムウェアだ。ランサムウェアは、ユーザーのデータをマルウェアによって暗号化してアクセス不能とし、身代金を要求する。ユーザーから見れば、意図しない暗号化は実質的にデータ喪失と同じである。数多い感染事例の中には、要求に応じて身代金を支払ってしまった例もあれば、バックアップからデータを復旧して業務の再開に成功した例もある。
こうした例を見ても、デジタルデータを保護するためには、従来のバックアップ/データ保護の技術とサイバーセキュリティーの技術の両方が必要になっていることは間違いない。同氏は、安全性とアクセシビリティに対する従来の取り組みに加え、新たにプライバシー、真正性、セキュリティーへの取り組みが加わることで、同社のサイバープロテクションの体系ができ上がったとした。
具体的な保護技術について、安全性では「バックアップ」「リストア」、アクセシビリティでは「リモートアクセスやモバイルアクセスとファイル単位やシステム単位での柔軟なリストアも構成要素となる。加えて、新しい要件となるプライバシーについては、エンタープライズレベルの暗号化、真正性ではブロックチェーン技術をベースとした独自のデータ認証、セキュリティーについてはアンチウイルス/アンチマルウェア、ビヘイビア分析、機械学習/AI(人工知能)といった技術で実現される。従来は、それぞれ独立していたバックアップ/データ保護とセキュリティーを統合するメリットについて同氏は、「単一のソリューションで総合的な保護が実現できること」を挙げている。
さらに、同社の統合プラットフォームである「Acronis Cyber Platform」が開発者、ソフトウェア開発企業、受託製造企業、サービスプロバイダーなどを対象に解放されることも明らかにしている。現在は先行アクセス期間で、公式発表は2019年10月13~16日に米国マイアミで開催予定の同社のプライベートイベント「Acronis Global Cyber Summit 2019」を予定する。
「Acronis Cyber Platform」の概要(出典:アクロニス)
Acronis Cyber Platformでは、「管理API」「サービスAPI」「データサービスSDK」「データディスティネーションSDK」「データ管理SDK」「サービスSDK」といった開発者向けの機能/ツールが提供されており、同社が提供するさまざまな機能をクラウドやオンプレミスなど、さまざまな環境で活用したり、あるいは独自の機能を付け加えたり組み合わせたりして利用することなどが可能になる。
なおIvanyuk氏は、Acronis入社前はセキュリティー企業のKaspersky Labで要職を務めていたというキャリアで、人材面でも同社のセキュリティー分野への対応が進んでいることがうかがえる。