Uber Technologiesが創業10年を迎え、次のステージに向かって歩みを進めている。創業者兼CEO(最高経営責任者)を務めたTravis Kalanick氏の退任(2017年)などのアップダウンを経たが、5月にはIPO(株式公開)を果たした。その際に巨額な損失も明らかになったが、同社が目指すのは単なる配車サービス以上の存在だ。6月11~12日、米国ワシントンD.C.で開催された「Uber Elevate Summit2019」は、Uberが進める次世代の交通・輸送構想を垣間見ることができた。
Uberは陸から空へ
2010年にUberの創業者らは3台の車でNew Yorkで実験を行った。すぐさまUberは広がり(正式なローンチはサンフランシスコ)、現在63カ国700都市以上でUberを利用できる。累計乗車数は150億回に達しているという。2017年からUberを率いるDara Khosrowshahi氏は、「移動に対する人々のニーズの現れ」と話す。
Uberは「Uber X」をコアに、複数の人が乗り合う「Uber Pool」などの配車サービスを持つが、ここ数年で拡大を図ってきた。短距離の移動としては、「Jump」ブランドで電気自転車とスクーターを展開、輸送業者とトラックのマッチングサービス「Uber Freight」では人だけでなく荷物も扱う。そして成長株の「UberEats」だ。日本でもおなじみのフードデリバリーで22万以上のレストランが参加しており、グロスブッキング(収入総額)の20%を占めるという。
2009年創業時のUber(サービス開始は2010年)
これらと平行して、Uberが3年前に事業部として立ち上げて進めているのが「Uber Elevate」だ。Uber Elevate Summitはそのイベントになり、2019年で3年目。「仕事に行くにしても、遊びに行くにしても、われわれは古い方法で移動している」とKhosrowshahi氏、「Uberは車を資産にしてモビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)という革命を起こしたが、真のトランスポーテーション革命はこれからだ」と意気込んだ。
Elevateで進めるのは「Uber Air」--空のタクシーである。米国2都市(ロサンゼルス、ダラス)、そして今回のイベントで発表されたオーストラリア・メルボルンで、2023年に商用サービス開始を目指している。
Uber Airで利用するのは電動型で垂直に離着陸できる「eVTOL(electric Vertical Take-off and Landing)」で、Aurora Flight Sciences(Boeing子会社)、Pipstreal Aircraft、Embraer、Bell、Karen Aircraftと提携している。イベントでは新たなパートナーとして、Jaunt Air Mobilityが加わり、計6社となった。
Uberが作成したeVTOL参照モデルも展示されていた
eVTOLが離着陸する「SkyPort」では、不動産デベロッパーと協業して都市の中で安全、快適に小型の航空機が飛び立てるデザインを作成している。ここでも新たなパートナーとしてRelated Companiesが発表された。またAT&TがeVTOLなどで利用する無線通信のプロバイダーとなることも発表、インフラ側の整備が進んでいることもアピールした。Skyportのオペレーション側でもプライベートジェットなどのターミナルのオペレーションを手がけるSignature Flight Serviceと提携したことを発表した。
イベントでは、Uber Airの前段階の取り組みであるヘリコプターサービス「UberCopter」を7月にニューヨークで開始することも明らかにした。UberCopterで空のオペレーションなどを学び、Uber Airにつなげていく考えだ。
UberCopterに試乗したというKhosrowshahi氏とその家族
陸上のサービスでも、最新世代のJump(バッテリーが取り外し式になり、スクーターの車輪が大きくなり安定性を強化するなどの特徴を持つ)、Volvoと進める自動運転カーの最新版「XC90 SUV」を披露した。
電気自動車とスクーターの「Jump」でも最新世代を披露した
Volvoと共同で進める自動運転車「XC90 SUV」。Uberの自動運転システムをインストールでき、Uberネットワーク上で利用ができる。Uberは自動運転のライドシェアサービスを2020年にも開始する予定だ
「創業者らはボタンをタップすると車がやって来る世界を描いていた。あれから10年、われわれは素晴らしい進化を遂げた。全てのサービスの合計トリップ数は1日1500万回に達している」とKhosrowshahi氏。目指すのは、「トランスポーテーションのAmazon、そしてGoogle」だ。単に移動手段をそろえるだけでなく、“AからBへ行きたい”と思った時にUberがどの手段を使うのかを提案してくれるというものだ。「起床して仕事に行き、食事に行き、友達に会い……。Uberは毎日のユースケースになりたい」と述べた。
Uber Elevateに参加していた英国ベースの投資家、Kevin Sara氏は、Uberのビジョンが野心的であることを認めながらも「Uberはタクシー業界を崩壊した。空を崩壊することができれば、ヘリコプターや短距離の飛行にとどまらず、最大のトラベルアレンジ会社になる可能性も秘めている」と分析した。そこでは規制が障害になるが、Uber Elevateの開催地はワシントンD.C.、イベントには運輸省長官もスピーチを寄せた。Khosrowshahi氏が前任者とは違うアプローチをとっていることは間違いない。
Khosrowshahi氏は最後に、「Uberプラットフォームはオープンで、参加者にチャンスをもたらす。どこに住んでいるのか、自動車を持つことができるのかが関係なく、人々が移動できるようになる」と述べ、1500人の来場者に向かってその世界を一緒に作ろうと呼びかけた。