ヴイエムウェアのマルチクラウド戦略--パブリッククラウドとの関係

渡邉利和

2019-06-19 10:43

 企業のIT環境のクラウド化が進む昨今、ハイブリッドクラウドやマルチクラウドといった環境が広まりつつある。米VMwareでグローバル フィールドおよびインダストリー担当副社長兼CTO(最高技術責任者)を務めるChris Wolf氏が先頃、同社のマルチクラウド戦略に関して説明を行った。

 Wolf氏はまず、VMwareの取り組みについて、「顧客企業の『データセンターのモダナイズ』を支援し、コストと複雑性を軽減していく」「開発者のクラウドアプリケーション開発を支援し、クラウドネイティブアプリケーションのアドバンテージを引き出せるようにする」という大きな目標を設定しているとした。現在の同社が目指すのは、スマートフォンでのユーザー体験と同じように、あらゆるサービス、あらゆるアプリケーションにアクセスできるインフラを整備することだという。

VMwareのクラウドインフラ・ポートフォリオ VMwareのクラウドインフラ・ポートフォリオ
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 これは、従来のオンプレミス環境を出発点とすれば、比較的容易に実現される。つまり、オンプレミスで実行していた仮想サーバーをクラウドに移行するという形であれば、通常は問題なく実現できるだろう。問題が生じるのは、特定のパブリッククラウド環境で実行することを前提に開発されたアプリケーションが、そのパブリッククラウドでのみ提供されている機能を活用している場合だ。

 というのも、パブリッククラウド事業者たちは新機能の開発や機能拡張に余念がなく、ユーザーや開発者にとって、いかに使いやすい優れた機能を提供できるかを競い合っている。結果として、ユーザーが利用可能な機能はパブリッククラウド環境ごとに異なるため、アプリケーションのポータビリティー(可搬性)を確保することは難しい。こうした問題に対してWolf氏は、「VMwareはクラウドサービスをクラウドデータセンターの外で実行するためのテクノロジーを開発した。クラウドサービスとクラウドデータセンターを切り離したことで、『ハイブリッドアプリケーション』が実行可能となった」と語る。

 具体的なイメージとしては、例えば、Microsoftが提供する「Azure Stack」は、パブリッククラウドサービスであるMicrosoft Azureが提供する機能をオンプレミスでも利用できるよう、クラウドの機能をアプライアンス化したものということができる。仮に、このAzure Stackをバーチャルアプライアンス化してVMwareのプラットフォーム上に準備しておけば、Microsoft Azure環境で実行することを前提に開発したアプリケーションをオンプレミスのVMwareプラットフォーム上でも運用できるだろう。同社の取り組みがユニークなのは、こうした対応をハイパースケールのパブリッククラウド事業者全てを対象に、公平に取りそろえようとしていることだ。具体的には、Amazon Web Services(AWS)、Microsoft Azure、Google Cloudの全てと、それぞれの連携が発表されている。

 こうした取り組みを背景として、Wolf氏はVMwareのインフラでは、「クラウドサービスの“ベストオブブリード”を実現できる」「開発者が特定のクラウドプロバイダーに縛られイノベーションが阻害されるようなことは避けたい」「VMwareは開発者がビジネスの課題を解決するために“ベストなテクノロジー”を使ってアプリケーションを開発できる環境を作る」と語っている。

 パブリッククラウドサービスで提供されている独自機能を全てVMware環境上に集約できれば、オンプレミスの“プライベートクラウド”環境であらゆるアプリケーションが実行できるようになる。同氏は“Cloud-Enabled Edge Services”と語り、ここではまずエッジコンピューティングという文脈において「クラウドサービスをエッジに拡張」するための取り組みが進められている。AWS Greengrass、Azure IoT Edge on vSphere、Google Anthosといった各社の取り組みとVMwareとの連携を既に発表しており、同社のコンセプトが単なる理想ではなく、実際にハイパースケールのパブリッククラウド事業者らとの連携が進んでいることが伺える。ただ、具体的なサービス提供が開始されているわけではないため、利用条件や料金といった具体的な内容までは明かされていない。それでもオンプレミスとクラウドとの効果的な併用を考えるユーザー企業にとっては、魅力的な話ではないだろうか。

 「オンプレミスからクラウドへ」というトレンドが注目を集めたタイミングでVMwareは、いわば「クラウドへの急速なシフトに乗り遅れた」と見なされる向きもあったようだが、現在では全てをクラウドに移行するのではなく、オンプレミスとクラウドを適材適所で使い分けるという穏当な結論に落ち着きつつある状況になっていることから、オンプレミスのITインフラのデファクトスタンダードといえる地位を固めているVMwareの存在感が再び高まっているように思われる。

 こうした構成として「VMware Cloud on AWS」ではAWS環境上にVMwareのインフラを構築できるし、Dell TechnologiesのCloudの取り組みの一環として発表された「Azure VMware Solutions」ではVMwareのクラウドインフラがMicrosoft Azureのサービスとして提供されるなど、パブリッククラウド上でVMwareのインフラを利用可能にする取り組みが進んでいる。その一方で、パブリッククラウドサービスをVMware環境上に取り込む動きも見せている。

 結果として、オンプレミスやクラウドを問わずVMwareのインフラをどこででも利用でき、機能性の面でも全てを含んでいる――という形がVMwareの目指す姿になるようだ。

VMware グローバル フィールドおよびインダストリー担当副社長兼CTOのChris Wolf氏
VMware グローバル フィールドおよびインダストリー担当副社長兼CTOのChris Wolf氏

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