日立製作所は6月26日、東京・国分寺市の同社中央研究所「協創の森」で、研究開発グループによる「研究開発インフォメーションミーティング(戦略・成果発表会)」を開催した。執行役常務でCTO(最高技術責任者) 研究開発グループ長 コーポレートベンチャリング室長の鈴木教洋氏は、「研究開発グループでは、『2021 中期経営計画』において研究開発に1兆2000億円を投資。『協創の森』を活用したオープンイノベーションエコシステムの構築により、Lumada事業を牽引していく」とした。
日立製作所 執行役常務 CTO兼研究開発グループ長兼コーポレートベンチャリング室長の鈴木教洋氏
同氏は、「日立はモビリティー、ライフ、インダストリー、エネルギー、ITの5つセクターにまたがるOT(制御技術)とIT、プロダクトの技術基盤を一カ所に集中させ、ノウハウを活用できる。これは専業メーカーにはできない日立の強みで、これを生かすことにより、“SDG's”や“Society 5.0”を牽引するグローバルイノベーションリーダーになる」との方針を示した。
日立製作所は、2018年度を最終年度とする「2018 中期経営計画」で研究開発に1兆円を投じたが、これを「2021中期経営計画」では1兆2000億円に拡大。「グローバル企業のデジタル投資が大きくなっているが、日立はOTとITの双方を持っているので、研究開発投資の効率につなげられる。開発効率を継続的に向上させ、さらにエコシステムの構築による研究開発の加速、海外リソース強化を推進する」(鈴木氏)としている。
研究開発の方針
研究開発投資に関しては、「2021 中期経営計画」で掲げた5つセクターにおいて、「Lumada」のコア技術の開発を行う「セクター×Lumada」のほか、「Lumada基盤」および「No.1プロダクト」に集中投資を行う姿勢を示している。「セクター×Lumada」では、5つのセクターにおけるそれぞれの取り組みを紹介した。
まずモビリティーでは、都市のシームレスな移動や、都市間移動に最適な「Mobility as a Service(MaaS)」の提供、列車やエレベーター、セキュリティーゲートなどの設備と、利用者の相互の影響を考慮した人流予想を活用し、設備計画の最適化などにつなげられるとした。
ライフでは、粒子線治療や体外診断によるスマートセラピー、自動運転やEVコンポーネントによるコネクテッドカー、コネクテッド家電やビルシステムによるスマートシティーを通じて、人々のQOL(Quality of Life)を向上させるとする。
インダストリーでは、ロボットとシステムインテグレーションの連携による次世代マニュファクチュアリングの実現や、次世代のメンテナンスおよびロジスティクスによるバリューチェーンの最適化、IoTコンパスによるデジタル化した工程シミュレーションを通じた改善サイクルの高速化を通じて、経営効率の最適化などを進められるという。
エネルギーでは、スイスABBのパワーグリッド製品や技術との連携に加え、現場力やデジタル技術を活用したサービスの創生、系統安定度高速解析技術を活用した安定的で効率的なエネルギーソリューションの提供が可能になるとした。
ITでは、8大生活習慣病の入院日数予測シミュレーターを製品化しており、これが保険サービスに活用されている事例や、インドや北米において電子行政基盤や電子決済ソリューション基盤を提供している事例を示した。
自動血液分析装置
また「Lumada」を支えるコア技術として、設備のリアルタイムデータをもとに産業機器の故障の予兆を診断する技術、映像をリアルタイムに分析して特定の人物の探索や追跡などができる映像・音声解析技術、15ng/Hzという世界最高感度を実現する超高感度振動センサーにより都市をモニタリングするセンシング技術、サイバー攻撃の予兆を検知して先周りでのセキュリティー対策を行う分散型セキュリティー統合監視技術を紹介した。
その他にも、プロダクトを支えるナンバーワン技術として、EVに活用するインバーター冷却実装技術、粒子線がん治療装置に利用している粒子線軌道制御技術、血液分析装置に採用している散乱光計測技術や微量非接触撹拌技術などに触れる一方、グローバル鉄道車両の内装および外装デザインが、「令和元年度 全国発明表彰恩賜発明賞」を受賞したことも紹介、鈴木氏は「恩賜発明賞をデザインで受賞したのは、同賞の約100年の歴史で初めて」と述べた。
グローバル鉄道車両の内装および外装デザインが「令和元年度全国発明表彰恩賜発明賞」を受賞した