エッジAIに特化するAISing--製造とクラウドの“つながり”も視野に

國谷武史 (編集部) 2019年07月02日 06時00分

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 デバイスなど現実世界のデータを人工知能(AI)で活用する試みがITと製造の両分野で進みつつある。IT側ではクラウドやデータセンターのリソースを強みとする一方、製造側ではデバイスへのテクノロジーの実装に強みがある。両者を巡る現状と将来性についてデバイス制御に特化したAI開発を手掛けるAISing 代表取締役CEO(最高経営責任者)の出澤純一氏に聞いた。

AISing 代表取締役CEO(最高経営責任者)の出澤純一氏
AISing 代表取締役CEO(最高経営責任者)の出澤純一氏

“つながり”の予感も、まだ隔たり

 同社は、機械工学出身の出澤氏と岩手大学 工学部准教授でCTO(最高技術責任者)の金天海氏が2016年に設立したベンチャー。デバイス制御に関するデータをリアルタイムに学習しながら動作の予測と補正などを可能にするというAIアルゴリズム「ディープ・バイナリ・ツリー(DBT)」を開発し、多彩な業種の大手企業らとソリューションの共同開発に取り組む。

 デバイスに関するデータは、映像や画像、音、振動、温度、速度、エネルギー消費など実にさまざまで、活用目的や期待される効果も多様だが、製造側とIT側のそれぞれの技術やノウハウをどう組み見合わせるかがポイントになる。「AIやIoT、5G(第5世代移動体通信システム)などのテクノロジーは互いに密接しているが、それらが融合する気配はまだ感じられない」――出澤氏は、現状をこう指摘する。

 IT側では、特にメガクラウドベンダーによる映像や画像、音声などの認識処理の研究開発が話題になる。例えば、Amazon Web Services(AWS)は、開発者向けに映像データと機械学習で車両の自律走行技術を学べる「Amazon DeepRacer」を展開し始めた。また、デバイスのデータをクラウドに収集し、データ分析などができるIoT機能もMicrosoft AzureやGoogle Cloud、AWSなどから提供されている。

 製造側でも、メーカーが中心となって生産性向上や品質改善、高度なデバイス制御などの実現を目的に、データとAIの活用に乗り出す。IT企業との協働は多いが、一方でIT側と隔たりがあるのが、高速の処理や応答が要求される領域だ。

 「例えば、自動車やドローンの操作、FA(ファクトリーオートメーション)制御といった部分に、AIのニーズが生じている。しかし、クラウドデータセンターのような潤沢なリソースがデバイス側にはなく、限られたリソースで、センサーデータをミリ秒以下で高速処理し、しかも何か起きれば説明しなければならない。“ブラックボックス”問題を抱えるディープラーニングをどう現実世界のデバイスに落とし込むかに、みな四苦八苦している状況」(出澤氏)

 つまり、「遅延」がボトルネックになる。出澤氏によれば、同じ機械制御でも、例えばビルの空調機器制御をAIで最適化するような目的なら、遅延が数秒程度であっても、デバイスとデータセンターの組み合わせで良い。しかし、処理の遅延が人命に関わったり、大規模事故を引き起こしたりしかねないリスクをはらむミリ秒、マイクロ秒単位の応答が必須になる用途では使えない。そこで、デバイスとデータセンターの中間で処理を行う「エッジコンピューティング」が注目されるようになった。

 エッジコンピューティング自体は、デバイス寄りでなるべく処理を完結させる、あるいはデータセンターとの分散処理で処理全体を効率化させるなど、目的によって役割や仕組みに違いはあるものの、低遅延化における期待は大きい。

“ニッチ”が“メジャー”に

 出澤氏らは、起業前の大学での研究時代から16年以上もAIによる機器制御の実現に取り組んできたという。当時はあまりに“ニッチ”で、エッジAIへの期待がいきなり到来した印象だという。

 「機械には個体差があり、その差が結果に影響する場合がある。メーカー製の機器ではほとんど問題ないが、大学の研究室で自作するような機器は個体差が大きく、手作業で調整しないといけない。非常に面倒な作業を効率化したいというのが研究のきっかけだが、あまりにニッチなテーマで、ほかにほとんど研究者がいなかった」(出澤氏)

 くしくもITの進化と世界的なデータサイエンスへの期待の高まりが重なり、機械制御に特化したAI技術という点で、同社はユニークな立ち位置にある。出澤氏によれば、DBTでは学習データのもとになるセンサーは100個程度以内に限定されるが、機器の個体差によって数秒以内で発生するかもしれない動作のわずかな変化をリアルタイムに予測し、自動的に補正制御して定常動作を維持させることができる。これにより、機器の不安定な動作がもたらす故障や事故などの危険性を低減できる効果などが期待される。

 逆に遅延要件が厳しくないような用途では、DBTを適用しなくても良いという。「画像や音声などを処理したり、アルゴリズムの精度を追求したりするような目的ならクラウドや従来のアルゴリズムを利用した方がはるかに効率的といえる」(出澤氏)

 現状でデータやAIの活用は、初期段階にあるというのが出澤氏の見立てだ。用途や手法、期待する効果など見極める方が大切だと指摘する。「PoC(概念実証)の結果、そもそもAIを使わず運用改善で課題解決ができてしまうようなケースもある。AIの本格利用には『目的』が重要であり、データサイエンスをしっかり行うことが先決」(出澤氏)

 DBT自体もまた要素技術といえ、同社では現在、製造分野を中心とするパートナー企業と、DBTを活用できるソリューションの幅を広げていく段階にあるという。将来構想として、デバイスやエッジごとに最適化した個々のDBTのアルゴリズムをクラウドなどに集約、学習することでより精度を高め、デバイスやエッジに適用するような仕組みも検討し、そのための要素技術も開発している。

 出澤氏は、この段階からIT側との本格的な連携も必要になると考える。「今後いろいろなものが絡み合い、クラウドに寄せたりエッジに寄せたりといった変化や、ITとOT(制御技術)の融合領域も広がるだろう。そこで一緒に何かできたら面白い」(出澤氏)

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