モノのインターネット(IoT)の応用例には、コネクテッドカーなどの華やかで興味深い例が無数にある。しかし、実際にIoTが使われているのは舞台の裏側であり、例えばエンジン用のセンサーや、予知保全、制御機器の時系列分析といった、製造現場や、産業用の機械やシステムを支える場面だ。産業用IoTはそのイメージ通り、生産を支える力だと言える。
ところが、産業用IoTの導入は大規模で複雑な作業であるため、物事はかつて期待されていたようなペースでは進んでいない。Bain & CompanyのMichael Schallehn氏とChristopher Schorling氏が公開している、ハイテク企業の役員600人を対象とした調査によれば、2018年には、製造業の顧客が予知保全の潜在的な可能性に対して持っている関心は、その2年前よりも低下していたという。Schallehn氏とSchorling氏はレポートの中で、「多くの顧客との対話によって、予知保全ソリューションの導入は予想されていたよりも困難であり、データから価値のある知見を引き出すことも難しいことが分かった」と述べている。問題だったのは、既存の運用技術とは作りも、メーカーも、標準もプロトコルも異なる技術をどう統合するかということだった。
提供:Joe McKendrick
それでも一部の業界専門家は、産業用IoTは「プロデューサー経済」の根本を本質的に変容させつつあると語る。例えばSoftware AGの最高技術責任者(CTO)であり、Cumulocityの創業者でもあるBernd Gross氏は、産業用IoTの導入は加速していると語る。同氏は、米カリフォルニア州サンタクララで開催されたイベント「IoT World」で、人工知能(AI)と機械学習は製造業をはじめとするさまざまな業界のあり方を変えつつあると語った。また、エンタープライズソフトウェアシステムにも影響を与えているという。
産業用IoTの普及が予想よりも遅いように見えるのは、この技術がまだ萌芽期にあるためだとGross氏は言う。同氏は「取り組みは始まったばかりだ。まだほとんどのプロジェクトは概念実証のためのものや試験的なもので、実用的な導入ではない。予知保全が話題になることが多いが、実際には、実用的な導入はこれからだ」と語り、今では自動車組み立て工場の塗装用ブラシの動きを監視するAIシステムとセンサーがリンクされていることを例として挙げた。人間のオペレーターであっても車体の塗装に生じる問題の95%は発見できるかもしれないが、問題を特定して修正するには時間がかかる場合がある。しかしAIを使用したIoTシステムであれば、起こりうる問題を予測することさえできると同氏は言う。
課題の1つは、IoTをそうした概念実証の事例以上のものに拡大することだ。「規模を拡大するのは非常に困難だ。これは、機械や業務プロセスごとに事情が異なるからであり、これはまったく同じ型の機械でさえ問題になる」とGross氏は述べ、「ある工場の予知保全の仕組みがほかの工場とはまったく違うものになってもおかしくない」と続けた。製造環境は多くのレイヤーから成り立っており、Gross氏が「従来型の製造現場のピラミッド」と呼ぶものを形成している。このピラミッドはI/OシステムやSCADA、MES、製造実行システムなどから構成されており、その頂点にERPシステムがある。