パーキンソン病や認知症の早期発見でAI活用を実証--順大とIBMなどが連携

國谷武史 (編集部)

2019-07-10 17:56

 順天堂大学とキリンホールディングス、三菱UFJリース、グローリー、日本生命保険、三菱UFJ信託銀行、日本IBMは、7月にパーキンソン病や認知症の予防・早期発見での人工知能(AI)活用などを目指す産学連携の「神経変性・認知症疾患共同研究講座」をスタートさせる。順大と各社が7月10日、取り組みの内容などを説明した。

神経変性・認知症疾患共同研究講座」の概要
神経変性・認知症疾患共同研究講座」の概要

 共同研究講座は、高齢化などに伴って発症するパーキンソン病や認知症などの神経変性疾患、認知症疾患の予防と早期発見、診断や治療に関する探索的研究の実現を目指すもの。より良い治療方法の開発を目的とした臨床的研究と、遠隔診療を通じて患者の生活の質を高める診療システム開発の2つのテーマで行う。

 同講座の代表を務める順天堂大学 医学部長の服部信孝教授によれば、認知症やパーキンソン病などの脳疾患は、これまでの研究から生活習慣との深い関わりがある可能性が明らかになっているという。また、症状や発症具合などは個々人によって大きく異なることから、個人が脳疾患に気がつかなかったり、既に症状が進行してしまったりしているケースが多い。今後の日本では高齢化がますます進み発症率が増加すると見られることから、同講座ではこれらの疾患の予防と早期対応にフォーカスする。

 臨床的研究では、軽度の認知機能の低下が見られるパーキンソン病に対する食品を用いた進行抑制の効果や嗅覚の訓練による認知機能の改善効果、旅行などによる生活の質・運動機能への影響について検討する。これまでの研究でビールなどに含まれるWYペプチドと、乳製品などに含まれるポップ苦味酸が認知機能の進行抑止や改善につながる効果が見込まれているといい、キリンホールディングスが順大と共同で6カ月間にわたる臨床試験と行うとしている。

 診療システムの開発では、医師と患者の会話や患者の表情と医学データを解析することで、認知症や認知機能の低下を早期発見する可能性を検証する。日本IBMが提供する遠隔診療システムをベースに、グローリーの画像認識技術を組み合わせたアプリケーションのプロトタイプを開発する。順大 脳神経内科の大山彦光准教授によれば、まず10月まで20人の被験者を対象にしたデータの蓄積と同時に、IBMのWatsonによるデータの機械学習を行う。その後10人ずつに分かれて、医師とWatsonによる判断を併用するケースと、医師が判断するケースを比較して効果を検証するとしている。

AIを用いた診療システムの開発概要
AIを用いた診療システムの開発概要

 日本IBM 常務執行役員の坪田知巳氏は、「われわれの研究所でも日常会話の中から同じ内容の話題を繰り返したり、表情の変化に乏しくなったりといった特徴を捉えて早期発見につなげられる可能性を確認している。共同研究を通じて客観的な診断基準づくりなどの取り組みに貢献したい」と話した。

診療システムの開発の方向性
診療システムの開発の方向性

 三菱UFJリースは、全国の病院などに医療関連機器などのリースサービスを提供していることから、開発を目指す診療システムの事業化を支援する。日本生命は、健康増進を中心とする現在の取り組みに加え、共同研究講座での成果を新たな商品やサービスの実現につなげたい考え。三菱UFJ信託銀行も高齢者一人ひとりの認知機能に応じた商品やサービスの提供を目指すとした。

 順大は、国内でも有数の神経変性疾患や認知症疾患などの診療実績があり、世界的にもこの分野で数多くの先端研究を手掛けているという。服部教授は、「診療時に患者に前向きな声を掛けることでも症状が緩和することもある。しかし、約1000人の患者を診療しており、1人と向き合える時間はわずかしかない。診療時だけではなく日常生活の状況も分かれば、一人ひとりに応じた対応やより良い生活の実現につながる可能性が期待される」と語った。

「神経変性・認知症疾患共同研究講座」参加組織の代表者ら
「神経変性・認知症疾患共同研究講座」参加組織の代表者ら

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