デジタル時代を支える顧客接点改革

第1回:顧客接点改革の理想と現実--成果創出のヒントを探る

照井栄介、里泰志、米田友樹 (クニエ) 2019年07月24日 07時00分

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はじめに

 デジタルトランスフォーメーション(DX)やカスタマーエクスペリエンスなど、顧客接点改革が重要と言われて久しいが、さまざまな取り組みを進めた結果、成果を創出している企業もあれば、そうでない企業もある。

 本連載では、成果創出のヒントを探るため、複数の事例から各企業が目指している姿と苦戦していること、そして、それをどのように乗り越えようとしているかを中心に紹介する。

顧客接点改革が注目される背景と現状

 「Amazon Effect」(アマゾン効果)に代表される社会やテクノロジーの環境変化に伴い、業種/業態やリアル/ネットの垣根は失われ、いかに顧客からの支持を得るかが重要となっている。

 そのため、製品の種類の多さや開発者こだわりの機能だけではなく、顧客の一人ひとりにどれだけ素晴らしい“個客”体験を提供できるかが重要となっている。

 “個客“体験の創出に向けて各企業は最新のテクノロジーを活用してクロスチャネルにおいてもシームレスな体験を提供するといった顧客接点改革を進め、例えば次のようなサービスの実現を推進している。

  • リアル店舗
    • Grab&Go(商品を手に取るだけで決済を完了できる仕組み)などによる決済の簡素化/レジ混雑の回避
    • サイネージ×アバターを用い、これまで接客を受けられなかった消費者に対する遠隔接客
    • アプリを買い物かごとして利用し、店舗で実物の買い物かごを持たずに手ぶらでショッピング
    • 店舗でしか購入できなかった商品をアプリで注文し自宅などに配送
  • EC/アプリ
    • GPSなどを用いて設定したエリア(自社店舗/競合店舗等)に入った消費者へレコメンド
    • 欲しい商品の画像をアプリで取りこめば該当商品・類似商品をレコメンド
    • クーポンの無駄打ち低減に向けた効果的なクーポン配信
    • 欠品商品が入荷したタイミングでのリアルタイムレコメンド
    • 購買履歴などに基づいたOne to Oneマーケティング
  • コンタクトセンター
    • テキストコミュニケーションの活用(有人チャット/チャットボット)
    • AI(人工知能)によるVOC(顧客の声)分析を通した商品開発などへの活用

 しかし、さまざまな試行錯誤がなされつつも、改革を実行し、成果を創出している企業はごく少数にとどまっているというのもまた現状である。

顧客接点改革実現に向けた各企業の対応と煩悶

 顧客接点改革の成果創出に向け、情報システム部とは別に新たにデジタル組織やデジタル担当役員を設置したり、サービスデザインといった新たな手法の研修を社員に受講させたり、有望な人材を中途採用したりするなど、人員確保にも動いている。

 しかし、従来の仕事のやり方が染みついた企業では、プロジェクト推進の合意形成が上手く図れず、PoC(概念実証)で頓挫してしまうことも散見される。

 さらに、外部の力を借りて改革を推進するも、改革の構想が絵に描いた餅で実行が困難だったり、特定のデジタルツールを導入したい思惑が透けて見えたりと、真の成果創出は容易でないのもまた現状だ。

成果創出に向けて乗り越えるべき3つの壁

 成果創出の成功要因はさまざまあるが、当社の経験により、特に次の3つが重要と考える(図1)。

1.顧客接点改革を遂行するための仕事の進め方と切り替え

 新しい仕事のやり方を知り、それを認め、チャレンジしていくことが重要である。例えば、次のようなことをプロジェクトメンバーで協議し、都度確認するプロジェクト運営が肝である。

1-1.顧客中心を掲げるだけでとどまらない

 自身が消費者の立場に立った場合、自社の商品・サービスを利用したいと思うだろうか。新しいサービスを検討する際、自社の強みや独自の機能を盛り込みがちではないだろうか。顧客中心に考える重要性をプロジェクトメンバー全員で協議し、都度振返るなどのプロジェクト運営が肝である。

1-2.「やってみなはれ」へのチャレンジ

 新サービスを企画するとき、どんな稟議(りんぎ)書を書くだろうか。最新技術を用いた前例のないサービスの場合、投資対効果の算出が容易でない。その場合に、精緻な数値や具体的な算出根拠が必要だと、その説明に多くの工数を要し、スタートが遅れる、またはスタートできないといった場合がある。

 まずやってみて効果の見込みがあれば継続、見込みがなければ撤退というサイクルを短いスパンで数多く回すリーンスタートアップのプロジェクト運営ルールを社内コンセンサスとすることが重要になる。その際、撤退基準も併せて協議することが肝要である。

1-3.熟考した100点より、スピード感ある30点

 最初から100点を取りにいく形と、最初は30点でもメンバーとともに100点に育てていく形とどちらのスタイルが顧客接点改革にフィットするだろうか。前例のないサービスを検討する場合、PDCAを短期間で回しこまめにブラッシュアップする方法の方が結果的に早く成果につながりやすい。事前に綿密な計画を立て、寸分の狂いもないウォーターフォール型の仕事の進め方が染みついた企業では、意識的に仕事の仕方を変えるチャレンジが求められる。

2.新たな顧客体験を提供・高度化するためのデータ蓄積と活用

 一人ひとりの顧客のニーズに合ったサービスを提供するために顧客データが分析可能な形式で整理されているだろうか。異なる部署ともデータを連携し、スピード感ある分析が可能であろうか。どんなに斬新で有効な顧客体験を設計しても、それを実現して高度化していくデータを蓄積・分析し、改善アクションに繋げていくことの重要性は論を待たない。

 どんなデータを蓄積することで競争優位を構築するか、どうやってデータクレンジングをするか、どんな分析をするのか、分析者はどこから調達するのか、分析業務のPDCAサイクルをどう構築するかなどが主な論点である。顧客接点改革を進める上で顧客データ活用は最も重要なテーマの1つであり、データ活用のシナリオを早い段階で検討することが肝である。

3.成果創出を第一義に動く全体統括チームの組閣

 顧客接点改革に関する多岐にわたる取り組みは、複数プロジェクトに及ぶ場合が多い。その際、起こりがちなのは、各プロジェクトが各々の思惑でソリューションを導入するが、導入自体が目的となってしまったり、他の既存ソリューションとの連携が考えられておらず、当初狙っていた成果が創出できなかったり、相乗効果を得られないといったケースである。

 顧客接点改革の成果創出を第一義に動き、全体を統括し推進する役割を持ったチームの組閣が重要である。これは単なる事務局機能とは大きく異なる。

最後に

 当社の経験から、EC/アプリ、店頭サービスなどに最新のソリューションを短期間に数多く導入したい現場部門と、セキュリティ担保や基幹システムへの影響などを考慮して堅実に進めたい情報システム部門との考え方に大きな違いのある場合が多い。

 現場部門としても、情報システム部を説得できなければ、ソリューションを導入できず頓挫してしまう。このような場合、自社のことを客観的な視点で見られ、かつ成果創出を第一義に動けるチームを外部人材も混成で組閣し、各プロジェクトを俯瞰してコントロールしている(図2)。

 これらの取り組みにより、ある1つのプロジェクトがハブとなって他プロジェクトがつながり、全体最適を生み出している。

 各社が抱える課題はそれぞれであるが、成果創出に向けた課題に真摯に向き合い、対策を講ずることで成功裏に収めることができると考える。

 次回以降の記事では、当社が実際に取り組んだ具体的な改革事例と成功のポイントをお伝えする。

  • 次世代コールセンターの姿とその実現に向けて
  • リアル店舗のデジタル化の要訣
  • ECとアプリ ~チャネルをまたいだシームレスな顧客体験の構築に向けて~
照井栄介(クニエ マネージングディレクター)
外資系コンサルティングファームを経て、NTTデータビジネスコンサルティング(現クニエ)に入社。製薬、サービス、消費財、流通業界など多岐にわたるお客さまのプロジェクトをリード。主に、営業・販売戦略の立案、営業業務改革、業務改革に伴う組織変革、実行支援、新規事業企画・立ち上げなど、お客さまと顧客とのエンゲージメントを高めるためのコンサルティングに従事。
里泰志(クニエ シニアマネージャー)
化粧品メーカー、外資系コンサルティングファームを経て、NTTデータビジネスコンサルティング(現クニエ)に入社。流通小売、消費財、製薬業などを中心に、営業戦略の立案、営業生産性向上、新規事業立ち上げ、業務改革に伴う組織変革・人材育成、IT戦略立案などのコンサルティング経験を持つ。近年は、デジタルを活用した事業モデル変革や新規サービスデザイン、顧客体験の設計などの分野で、クライアント企業に深く入り込んだコンサルティングを実施。
米田友樹(クニエ コンサルタント)
大手SIer、人材系事業会社を経て、クニエに入社。流通小売、製造業などを中心に、営業戦略の立案、営業業務改革、IT戦略立案、顧客接点系プロジェクトにおけるPMO支援などのコンサルティング経験を持つ。近年は、主に流通小売業界においてデジタルを活用した顧客接点領域の改革支援や顧客体験の設計などのコンサルティングに従事。

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