デジタル失敗学

仕事で致命的な状況を回避するためのセキュリティ対策のキホン

萩原栄幸

2019-07-25 06:00

 私は、20年近く情報セキュリティの啓蒙(けいもう)教育に携わってきました。今回は日常的に実践すべき情報セキュリティ対策の基本を解説します。いずれも「あるある」の事例ですから、ぜひ心がけて注意していただきたいと思います。以前、あるメガバンクで啓蒙活動用にビデオを作成しました。一部は実際のものと異なりますが、その概要をご紹介しましょう。

仕事を持ち帰ると

 若手の行員Aさんは日々多忙な作業をしていました。ある日、支店近くの飲み屋で転勤する上司の送別会が開催されました。当然ながら、自宅に仕事の資料を持ち帰ることが禁止されていましたが、Aさんはこの週末に資料を作成すれば帳尻が合うと判断し、カバンの中にお客さまの情報を含む資料を詰め込み、送別会に駆け付けたのです。とても断れる雰囲気でもなかったからでした。

 ところが、日ごろの鬱積(うっせき)がたまっていたせいか、Aさんはつい飲み過ぎてしまいます。なんとか電車に乗るものの、車内で爆睡してしまい、終点(自宅の最寄り駅から6つ目の駅でしたが)で乗務員に起こされ、ホームに出たところでカバンを持っていないことに気がついたのです。

 飲み屋を出た時にカバンを持っていたのかも覚えていないほど、あやふやな状況に青ざめ、社則に従ってすぐに支店長の携帯電話に連絡しました。駅員にも紛失物の届け出がないかを確認し、飲み屋にも連絡しましたが、カバンは見つかりませんでした。

 その後、Aさんが記憶をたどると、飲み屋を出た時にカバンを持っていたことは思い出しました。しかし、乗車時の記憶がなく、そこでカバンを紛失したことに気がついたのです。翌日、支店では緊急作業やお客さま対応がある行員以外の最低限の人数で窓口対応を行い、その後支店の行員が総出で飲み屋からAさんの乗車駅まで2分ほどの道のりを確認しました。乗車したホームや降車したホームの捜索、そして、乗車した車両も特定し、駅員とも協力しながら捜索しました。何と丸1日で行員12人と駅員や乗務員、警察の協力による大捜索にもかかわらず、結局見つからなかったのです。

 そして支店長は、Aさんに静かに話しかけました。

 「分かっていると思うが、従業員規則によって、あなた(Aさん)は今日から自宅謹慎してもらう。数日経っても発見できない場合は、そのまま懲戒免職処分になる。とても残念だが、これはルールだ。救済措置はない。多忙だったのは理解できるが、自宅に資料を持ち込もうとした時に、なぜ上司に相談しなかったのか。規則を破ってつじつま合せをする行為は、年1回の社内セミナーでも絶対にしてはいけないと言われているではないか。これ以上叱っても意味がない。今後の身の振り方を早急に決めなさい。人事部の弁護士が相談に乗ってくれるが、再就職先はあっせんできない。でも個人的には相談に乗ってあげたいと思うから、ぜひ連絡してほしい。直属の上司には相談しない方がいいだろう。彼が監督責任に問われたら、何らかの処分になる可能性が高い」

 このビデオを流したところ、各所で大きな反響があったようでした。皆さん、映像には素人でしたから、専門家に作成してもらい非常に臨場感のある内容に仕上がりました。

 さて、読者の皆さんは実際にこのようなシーンに直面した場合、どう考えますか? 決して他人事と思わず、反面教師として注意を心がけていただきたいと思います。

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