近年、人事・人材の世界で「タレントマネジメント」という考え方が広まっている。簡単に言えば、優秀な人材(タレント)を確保し、育成、成長、定着させるための仕組みになる。人材不足や後継者問題などの経営課題を解決するものとして期待されている。
一方で、組織を動かしているのは一部の優秀な人材だけではない。人々は集団になると、良く働く上位の2割、普通に働く中位の6割、働かない下位の2割に分かれると言われており、これは「2-6-2の法則」と呼ばれる。
タレントマネジメントは、この「上位2割」にフォーカスを当てるものであるのに対して、残りの8割も含めて「チーム全員で勝つ」ための仕組みが「ピープルイネーブルメント」になる。
この言葉を提唱するワークデイでは、「一人ひとりの能力を最大限に引き出し、全ての社員を『できる化』する」ことと説明する。ピープルイネーブルメントを実現するための要素として、「帰属意識」「権限移譲」「適材適所」「能力開発」の4つを挙げる。これによって従業員一人ひとりの成長を促し、能力の最大化を目指す。
同社は、人材を中心に据えたエンタープライズソフトウェアをクラウドで提供している。中核ソフトの「Workday ヒューマンキャピタルマネジメント(HCM)」は、人員計画や人材育成、報酬管理、目標管理、教育管理、オンボーディング(新入社員の定着)、採用などの人事に関連する業務を単一のプラットフォームで運用する。従業員情報や成績評価、後継者育成といった機能も統合されており、「従業員と管理者が常につながっているための仕組みを提供する」(ワークデイ日本法人 社長執行役員の鍛治屋清二氏)
Workday HCMの構成イメージ(出典:ワークデイ)
学歴や職歴、目標、評価、報酬、能力、教育などのデータを一元管理することで、従業員の仕事やキャリアに対する志向や価値観、モチベーション、置かれた環境が見えてくる。「従業員が何を考えているかを理解することで初めてピープルイネーブルメントが機能する」と鍛治屋氏は話す。
また、顧客同士が自社のデータを共有する「ベンチマーク」というデータサービスも展開する。Workdayのユーザーは全世界2700社、従業員3700万人に及ぶ。これらの顧客がオプトイン形式でベンチマークプログラムに参加することで、データを匿名化した状態で共有する代わりに、業界・業種の給与水準や離職率などと比較できる。
ワークデイでは、毎週金曜日に「Best Workday Survey」と呼ばれる調査を実施。システム経由で送られてきた質問に応え、マネージャーは自分のチームの状態や問題点などをダッシュボードで確認できる仕組みになっている。17週間のサイクルで改善を繰り返し、従業員体験(エンプロイーエクスペリエンス)を向上させる。その取り組みの成果として、同社は米Fortuneの「働きがいのある企業100社」の2019年版で4位に選ばれている。
日本では600社程度が同社サービスを導入している。日立製作所や住友化学、江崎グリコ、ニトリホールディングスなどが名を連ねている。ただ、まだ大半の日本企業には、人材戦略を担う最高人事責任者(CHRO)がいない。人事や人材領域のデジタル化を進めるには、いち早く経営を巻き込んだ形で人材管理に関するシステム投資を検討し、適切な計画を立てることが重要になる、と鍛治屋氏は指摘した。
ワークデイ日本法人 社長執行役員の鍛治屋清二氏