働き方改革の波は建設業にも及んでいる。
土木建築工事を主たる事業とする石川建設(群馬県太田市、従業員数229人)では、現場におけるモバイルデバイスの活用を通じて紙書類をデータ化するとともにデータを分析して工事現場の品質管理に努めてきたが、社内数台のPCがランサムウェアに感染してしまった。「セキュリティやコンプライアンスの重要性に気付き、改める切っ掛けとなった」と語るのは、同社CSサービス本部 システム構築リーダー 亀山恵美子氏。
亀山氏は7月23日に開かれたイベント「Box World Tour Tokyo 2019」に登壇。「ICTによる社員満足度を上げる業務改革と働き方改革~社内展開の苦労話と成功法~」と題して講演した。
石川建設 CSサービス本部 システム構築リーダー 亀山恵美子氏
代表取締役 石川雅之氏が先頭に立ってセキュリティの見直しを含めた働き方改革の推進が始まる。同社はファイルやコンテンツが散在することに起因する情報漏えいや喪失リスク、持ち帰り業務の多発による効率悪化と情報の属人化、業務システムの分離によるダブルオペレーションといった課題を抱えていた。
「ファイルの一元管理」「効率化による働き方改革」「連携した業務システム」を理想像として、2016年にクラウドストレージ「Box」を活用する。亀山氏は「(クラウドストレージとして)複数候補から、ローカルにファイルを残さないセキュアな環境が決め手」になったと説明した。
だが、社内の反応は「不要」「クラウド?」「今まで通りでいい」と肯定的な意見は皆無で、評判は芳しくなかった。亀山氏は「USBメモリーやCD-Rに書き込んだデータは消えないと信じていた(従業員が多数存在した)。自身が痛みを感じないと必要性を伴わない。当時『社内は敵だらけ』と感じていた」と振り返る。当時の社内PCはWindows 7だったが、研修用に調達したPCがWindows 10だったため、多くの従業員がOSの操作に慣れておらず、Boxへのログインまで5~30分もかかる有様だったという。
このような経緯から石川建設は、一度の開催で1つの機能を説明する部門単位の研修を開いた。ログインできれば成功とハードルを大きく下げ、参加者が気軽に質問できる少人数制を採用。社内のグループウェアにBoxの共有リンクを貼ることで業務内にBoxを浸透させることに努めた。
最大の課題だったセキュリティは別途研修を開いた。その理由として「管理側として(セキュリティ意識の浸透は)欠かせないものの、利用者は使いやすい、覚えやすい方を優先する。別途(セキュリティ研修)実施した結果、改善の余地が見られた」(亀山氏)そうだ。
他方で新たなITを社内に浸透させるコツとして、「キーとなる部署を見つける」(亀山氏)と説明する。営業と工事部署と連携する該当部署の平均年齢は50.6歳と決して若くはないものの、「年齢にとらわれず、背景にある問題点に目を向けると定着しやすい」(亀山氏)という。