日本マイクロソフトは8月20日、2020年事業年度(2019年7月1日~2020年6月30日)の経営方針を発表した。2019年度に掲げたインダストリー、ワークスタイル、ライフスタイルの3分野における変革の推進を継続しつつ、「顧客の業種業態に応じた最適な支援の推進」「モダナイゼーションの加速(ITインフラの最新化)」「クラウド&AI(人工知能)人材の育成」という具体的な施策を展開、昨年度に掲げた2020年までに「日本でナンバーワンのクラウドベンダーを目指す」との目標も継続する。
同日の説明会には、8月31日に退任する代表取締役社長の平野拓也氏が登壇した。同氏は、9月1日から同社の特別顧問と米Microsoft VP for One Microsoft Partner Group, Global System Integrator Businessに就任し、活動拠点を日本から米国に変更する。

8月31日に退任する日本マイクロソフト 代表取締役社長の平野拓也氏
まず平野氏は、2019年度の事業を振り返った。グローバルの年間売上高は、前年度比14%増(154億ドル増)の1258億ドルだった。Microsoft AzureやOffice 365、Dynamics 365を含めた「コマーシャルクラウド」の売上高は381億ドルで、こちらも昨年度の230億ドルから151億ドル増加した。
社長就任から4年を数える平野氏は、この間にMicrosoft Azureの国内新規顧客が4倍以上増えたと述べた。その理由として、「日本企業ではデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進やクラウドに対する理解が進んだ。(同社の事業が)顧客のビジネスと競合せず、セキュリティや安心といったエンタープライズグレードのサービスを提供してきたことも大きい。他方でパートナー企業によるMicrosoft Azureなどの提案機会も増えている。複数の要素が重なり合ってシェア獲得に至った」と分析した。

2019事業年度のグローバルでの業績
同社は、2019年度にワークライフイノベーションとして、週4日の勤務を実践するプロジェクト「ワークライフチョイス チャレンジ 2019 夏」を実施。「社員からは、『介護』『断捨離』といった取り組みや、『スタートアップ企業とのコミュニケーション』『5日間の業務を4日間でやるのは大変』といった気付きがあった」(平野氏)という。
他方では、GEヘルスケア・ジャパンと「リターンシップ プログラム」を実施した。ここでは出産や転勤、介護の後のキャリアの再開や職場復帰を目指す「リターンシッププログラム」を推進し、日本マイクロソフトからは10人ほどが参加して、定着化しつつあるという。「他の8社も同様に取り組み、ITを駆使して生産性を向上させる一方で、新たな働き方としてインパクトがあった」(平野氏)と取り組みの結果を語った。
また、政府が2019年4月に「一億総活躍社会を実現するための改革」を本格始動させた。同社はそれ以前から、テレワーク週間などで働き方改革を実践してきたが、平野氏の社長就任から4年間で、「1人当たりの労働時間が80時間削減された。これは年間で10日分の就労時間の削減に相当する。テクノロジーやオペレーション、人事制度を変えた上での成果」と平野氏は振り返った。
2020年度の注力分野では、「顧客の業種業態に応じた最適な支援の推進」「モダナイゼーションの加速(ITインフラの最新化)」「クラウド&AI人材の育成」の3項目を掲げている。最初の業種業態の支援推進は、以前から掲げる7分野(自動車、製造・資源、金融、メディア・通信、流通・消費財、運輸・サービス、ゲーミング)に対して、業種ごとにリファレンスアーキテクチャーの提供を指す。2019年1月には流通業向けリファレンスアーキテクチャー「Smart Store」の無償提供を発表しているが、「非常に好評だった。Smart Storeと同様にリファレンスアーキテクチャーを他業種に展開する」(平野氏)とした。

日本マイクロソフト 執行役員 常務 エンタープライズ事業本部長のHennie Loubser氏
民間部門を担当する執行役員 常務 エンタープライズ事業本部長のHennie Loubser氏は「米自動車メーカーのFordは過去数年間にその他のエンジニアを上回る6500人ものソフトウェアエンジニアを採用しており、日本企業でも同様の波が来るだろう。われわれは技術集約型のビジネスを支援する」との意気込みを語った。ゲーム業界に対しても「チームを結成し、特にモバイル開発者にMicrosoft Azureを通じたグローバル展開や生産性を向上させ、エコシステムでゲーム開発やパブリッシャを支援する」と述べた。
公共部門を担当する執行役員 常務 パブリックセクター事業本部長の佐藤知成氏は、政府が「クラウド・バイ・デフォルト」の方針を発表したことを受けて、Microsoftグローバルの担当部門と各国の政府機関における施策を調査したといい、「諸外国では政府機関によるDXが進んでいることが分かった」と説明した。現在は米国本社と連携して中央官庁や自治体向け組織との関係の再構築に取り組んでおり、9月ごろにも成果を発表するとした。

日本マイクロソフト 執行役員 常務 パブリックセクター事業本部長の佐藤知成氏
ヘルスケア分野でも、製薬企業の研究開発部門や医療機関の遠隔診断、画像診断にAIを活用する具体的な事例が増えているといい、「2020年度はさらに踏み込み、人々に役立つ技術を提供するのがわれわれの役割」(佐藤氏)との考えを説明した。
モダナイゼーションの加速では、平野氏は、経済産業省の「DXレポート」で指摘された“2025年の崖”(古い基幹系業務システムを刷新しないことにより年12兆円相当の損失が発生するのと試算)に触れ、それを回避するため、インフラのクラウド化を推進して顧客の負荷を軽減し、同社がコモディティー化の部分で支援すると表明した。
また、2020年1月14日にサポートが終了するWindows Server 2008/2008 R2の移行対応にも注力する。担当する執行役員 常務 クラウド&ソリューション事業本部長の手島主税氏は、「現状のERPの刷新や移行が(モダナイゼ―ションの)ゴールではなく、業務や部門間をまたぐ課題を解決しなければ、DXは進まない。ERPとCRMの連携強化や業務プロセスの最適化などに向け、バラバラのシステムのデータをつなげて洞察を与える“デジタルフィードバックループ”を展開したい」と説明した。

新年度の重点テーマとその中核になるという「デジタルフィードバックループ」
クラウド&AI人材の育成に関して同社は、グローバルで「CLO(Chief Learning Officer)」という役職を新設、前年度までデジタルトランスフォーメーション事業本部を率いていた伊藤かつら氏が就任する。伊藤氏は、新たに設置したプロフェッショナル スキル開発本部がスキル開発に焦点を当て、Microsoft Azureのテクニカルトレーナーを安価に提供し、顧客の技術力を育成していくと説明した。また、顧客やパートナーに認定習得に向けたトレーニングを拡大していくほか、同社の従業員にもプログラムを提供し、毎月8時間以上のテクニカルスキル強化のための学習に取り組んでいるとした。
最後に平野氏は、2020年に国内ナンバーワンのクラウドベンダーを目指すという目標について、「社長就任時の4年前は4位、2年前は2位と成長しており、2020年はパートナーとともにナンバーワンを実現して、日本のDXに貢献できる企業を目指したい」と締めくくった。