日本HP、テキスタイルのデジタル印刷に参入--事業拠点での生産支える

大場みのり (編集部) 2019年08月23日 18時20分

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 日本HPは8月21日、昇華型デジタルテキスタイルプリンター「HP Stitch S プリンター」シリーズを発表した。昇華型とは、固形インクを熱で気化し、印刷物に転写する方式。インク量の微妙な調節が可能で、他の方式より細かな濃淡を再現できる。

 新製品は、「HP Stitch S300」「同S500」「同S1000」の3機種で、日本では8月29日に発売する。日本HPは今後、同シリーズの投入によりテキスタイルのデジタル印刷に注力していく。印刷されたものは、ソフトサイネージ(タペストリーやのぼり)、スポーツウェア、室内装飾、ファッション製品に用いられる。

発表会では、S500が展示された。同プリンターで印刷されたドレスを着用したモデル(左)と日本HP 代表取締役 社長執行役員の岡隆史氏(右)
発表会では、S500が展示された。同プリンターで印刷されたドレスを着用したモデル(左)と日本HP 代表取締役 社長執行役員の岡隆史氏(右)

 プリンターはHPの中核事業。同社は35年間にわたり、小型かつ低コストでオフィスにプリンターが普及するきっかけとなった「サーマルインクジェットプリンター」(1984年)や、水性だが雨などに強く長期間の屋外展示を可能にした「屋外耐候性水性インクHP Latex プリンター」(2008年)など、世界初のプリンターを開発してきたという。HP Latexプリンターは現在、世界で6万3000台以上稼働しており、屋外看板やカーラッピングなどさまざまなものに活用されている。

 今回のテキスタイル分野への参入目的は、企業が事業拠点で生産できるようにするためだという。「1970年代半ばから、テキスタイルの生産拠点はコストの観点から中国や東南アジアに置かれていたが近年、納品期間短縮のため生産拠点が事業拠点、もしくは近い場所に戻りつつある。例えば、ヨーロッパで事業を行う企業が生産拠点から近隣の場所に移したところ、納品期間を約30日から最短2日にすることができたという。日本では現在、国内生産の割合は低いものの、先を見据えて今回の開発に至った」と同社 Latexビジネス本部 本部長の秋山裕之氏は説明した。

 またテキスタイルを染める際、従来は水を汚していたが、デジタル印刷では水で洗うという作業がないため環境に配慮して生産できるという。実際HPの調べでは、テキスタイル業界におけるデジタル印刷市場は、2013年の約750億円から2018年には約2350億円まで伸び、2023年には約3850億円に到達すると予測されている。

スポーツウェアとしてユニフォームやヨガウェアが展示されていた
スポーツウェアとしてユニフォームやヨガウェアが展示されていた
ドレスやソファー、照明も展示。今回はプリンター機能の説明のため鮮やかだが、淡い色にも対応できる
ドレスやソファー、照明も展示。今回はプリンター機能の説明のため鮮やかだが、淡い色にも対応できる

 テキスタイル分野への参入に当たり、HPの開発部門がテキスタイルメーカーなど昇華プリンターを使う世界中の企業に話を聞いたところ、「特にユニフォームの場合、同じ色を再現しなくてはならない」「コスト削減のために薄手の転写紙を使いたいがコックリング(紙がインクを吸収して波打ち状に皺が入る現象)が起きてしまう」「バンディング(印刷物に筋が入る現象)などの発生リスクに備え、夜間も人が見張っていなければならない」といった課題があると判明したという。そこでHPは、同シリーズでこれらの課題解決を目指した。

 色の再現は、内蔵分光測光器「HPスマートカラーツール」により、リファレンステーブル(素材ごとの色の基準値)をプリンターに保存することで、色を調整し再現。また「HP PrintOS」を用いて、リファレンステーブルを含むメディアプロファイルをクラウドにバックアップし、複数台のプリンター間での送受信を可能とした。

 薄手の転写紙に関しては、「HP ドロップ&ドライ プリントゾーンドライヤー」により、印刷エリアでコックリングが起きる前に水分を乾燥させることで、薄手の紙でも印刷できるようにしている。またテンション検知リワインダーで、紙の強度に応じて巻き取りの強さを調整する。

 バンディングについては、OMAS(Optical Media Advance Sensor)により、転写紙や生地の裏面を常に高速撮影し、素材の搬送距離を確認。その距離をモーターやプリントヘッドの端部ノズルにフィードバックすることで減らす。またノズル抜け(プリントヘッドが詰まり、印刷されない部分が発生する現象)によるバンディングは、「HP スマートノズル補完システム」が抜けている箇所を検知し、隣接したノズルが補完する。

 加えて、従来と比べて約4倍の1200ネイティブdpi(dot per inch:1インチ当たり1200個のノズル)のサーマルインクジェット・プリントヘッドにより、一度に多くのインクを吐出できるため高速かつ高濃度な印刷が実現し、結果として鮮やかな仕上がりになるという。

左からS300、 S500、 S1000(出典:日本HP)
左からS300、 S500、 S1000(出典:日本HP)

 S300と S500は最大1.6m幅、S1000は最大3.2m幅の印刷が可能。S300は初めて昇華プリンターを使用するプロトタイプ制作部門や印刷事業者、S500は大量プリントを行う環境に適している。一方S1000は、中規模以上のテキスタイル印刷事業者向けで、ソフトサイネージや室内装飾などで高い生産性を実現するという。

 価格は、 S300が248万円から、S500が358万円から、S1000、HP Stitch Dye Subのインク各色、HP Stitch Dye Sub プリントヘッドがオープン。販売チャネルは、テキスタイル事業への参入が初めてのため、まずはHP Latex プリンター事業で展開している販売店で始め、徐々に広げていくことを予定している。

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