アクセンチュアは8月23日、企業のイノベーション拡大に向けた取り組みに関する調査結果を発表した。これによると、製造業において卓越した成果を上げている企業は、デジタルを活用したイノベーションの拡大方法を見極め、高いデジタル投資収益率(Return on Digital Investment:RODI)を実現していることが分かった。こうした企業は、同業他社より多くのPoC(概念実証)を本格化し、結果的に他社平均を上回る収益を上げているという。
RODIの目標値と実績値(出典:アクセンチュア)
この調査は、産業分野の企業が実証段階の取り組みを本格化することで、どのようにデジタル変革を推進しているかを調べるために実施された。日本、オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、フィンランド、フランス、ドイツ、インド、イタリア、ノルウェー、スペイン、スウェーデン、スイス、オランダ、英国、米国の17カ国、13業界の組み立て製造と製薬や化学製造などのプロセス製造を代表する企業の上級役職者1350人を対象に、2018年10〜12月に実施された。調査対象企業の年商は10億ドル以上。
調査対象となった全ての企業がPoCの後もイノベーション拡大に向けた取り組みに投資を継続させていた一方で、期待通りの収益を上げた優秀企業は、わずか22%だった。
同業他社を上回る収益を上げている優秀企業は、実施したPoCの半数以上を本格化させている。優秀企業が目標としていたRODIは平均22.2%だが、実際のRODIは25.4%だった。
優秀企業に該当しなかった78%の企業は、RODIが非常に低かったことも分かった。優秀企業とほぼ同数のPoCを本格化したものの、RODIが目標を下回った企業(第2群企業)は、調査対象の約65%であり、7.1%のRODIという目標に対し、実際は6.4%しか達成できず、業界平均のRODIを下回っている。また、本格化したPoCの数が半数未満で、RODIが目標を下回った企業(第3群企業)は、11.4%の目標に対し、実際は9.7%しか達成できていない。
アクセンチュアでは、優秀企業が講じている4つの対策を挙げている。
優秀企業は目の前にあるチャンスを見極めつつ、経営目線で追求したい市場機会を絞り込んでいる。その上で上級役職者が中間管理職と連携し、「トップダウンでの価値創出」と「創出の途中で起こるイノベーションの行き詰まり」という2つの重要な課題を解決しながら、イノベーションの取り組みを主導し、期待通りの成果を生み出している。
また優秀企業は、テクノロジー変革と組織変革を分断しないように組み合わせることで、「双面型」と呼ばれる組織を効果的に構築している。双面型組織とは、例えば「既存事業」と「新規事業」のそれぞれの課題について、両者を分断しないために経営幹部が密接に連携し補完しあう組織を指す。優秀企業のうち63%は、「双面型組織の構築が目標である」と回答しているが、優秀企業以外で同様に回答した企業は54%だった。
さらに調査結果によると、優秀企業はイノベーション要因に合わせて投資する能力に長けていることが分かった。例えば、データ分析基盤、新しい働き方、部門連携の新たなモデルといった仕組みを、ニーズや活用可能性が最も高い事業部門に組み込んでいる。
4つ目の対策として、優秀企業は、スタートアップをスピンオフ(事業の分離・独立)または買収してイノベーションを進めるよりも、社内にイノベーション専門組織を創設する傾向があるという。こうした組織はその後、既存の事業部門に組み込まれ、イノベーションや新規ソリューションの開発における推進力となる。