本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、平井卓也 IT・科学技術担当大臣と、日本マイクロソフトのHennie Loubser 執行役員常務の発言を紹介する。
「デジタル技術を活用して今より圧倒的に便利な社会を目指そう」
(平井卓也 IT・科学技術担当大臣)
平井卓也IT・科学技術担当大臣
IT・科学技術担当大臣の平井卓也氏は、日本マイクロソフトが先頃、都内ホテルで開いた「Japan Partner Conference(JPC)2019」の講演に特別ゲストとして登壇し、日本政府が提唱する未来社会のコンセプトである「Society 5.0」について語った。冒頭の発言は、Society 5.0に向けて「圧倒的に便利にすることが重要」という同氏の強い思いを込めたメッセージである。
政府の公式見解によると、Society 5.0とは「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」のことだ。ちなみに、Society 1.0は「狩猟社会」、同2.0は「農耕社会」、同3.0は「工業社会」、同4.0は「情報社会」を指す。
だが、平井氏はスピーチの中で「Society 5.0とは何かと聞かれても、私にはまだしっくりと来る言葉が見つからない」とも。こう言われると、聞いている方は同氏の意図を探りたくなる。
そこで同氏が話題に上げたのは、次のような日本の人口構成の問題だ。
「日本は新しい令和の時代に入ったが、この時代の人口構成は、50歳以上が6割、65歳以上が4割といった割合で安定してしまう可能性が高い。特に50歳以上が6割という社会は、これまで地球上に存在したことがない。果たして、サイバー空間とフィジカル空間をどうやって融合し、どうやって経済発展と社会的課題の解決を両立していくのか」
だからこそ、やりがいがあるという同氏は、「この問題については、多くの国からもたいへん興味を持たれている。状況が似通っている欧米諸国とも連携しながら対応策を見出して、後に同様の状況を迎える国々に伝授できるようにして、グローバルに貢献していきたい」と力を込めた。
もう1つ、平井氏の話で興味深かったのは、「Society 5.0はデジタリゼーションではなく、“デジタライゼーション”を推進していかなければならない」との見解だ。
同氏いわく「両方とも“デジタル化”と表現されているが、意味合いが違う。例えば、テレビ放送がアナログからデジタルに変わったのはデジタリゼーションだ。それに対し、デジタライゼーションはそうした技術の変化を捉えて、サブスクリプションモデルのテレビ放送サービスを展開するようなケースが当てはまる。つまり、物事のやり方を大きく変えるわけだ。そして、それが利用者からして圧倒的に便利になることが、デジタライゼーションだと、私は解釈している」とのこと。
「圧倒的に便利に」という強い言葉を折々に挟み込む、心憎いスピーチだった。
平井大臣の講演の様子