RPA推進に向けた3つのアプローチ
WinActor採用後、その展開を推進するにあたり、従業員のマインド変革、サポート/教育体制の整備、情報共有ツールの活用という、3つのアプローチを導入しているという。
従業員のマインド変革については、「業革セミナー」を全国50カ所以上の事業所で開催している。このセミナーは、働き方改革への意識醸成と「我が事」化が狙いで、700人を超える社員が参加していると北川氏は述べる。
その内容としては、社長のメッセージビデオにより働き方改革の考え方を共有するとともに、RPAと人との作業の比較動画により「RPA導入により作業が楽になる」ということを実感できるようにしている。「Excel」のマクロなどでブラックボックス化している作業があることから、RPAもブラックボックス化するのではという懸念についても、比較動画を示すことで、RPAがフローの可視化で属人化しないツールであることの理解が深まるように努めているという。
このようなセミナーを通じて、自らRPAを使いたいという声が多数上がったこともあり、女性活躍推進と連動した取り組みとして、事務作業の中心を担う女性社員に限定した「RPA合宿」も実施したと北川氏。Excelが使えることを条件にプログラミング未経験の40人が参加した2泊3日の合宿では、WinActorの基礎知識やシナリオ作りを学ぶことで、「業務は自ら変えることができる」という意識が浸透したという。
ただ、この合宿を参加しただけでシナリオ作成者として独り立ちするというのは難しいので、サポート/教育体制の整備が必要となると北川氏は述べる。
そこで、まず、代理店の技術者に事務局に常駐してもらうことで、ITスキルの高いキーマンのいない事業所でも利用の推進を狙ったという。技術者の常駐により、社内システムや業務フローの理解、問い合わせへのスピーディーな対応、出張での研修や開発サポートが可能になったという。
教育面については、一般的な内容の研修では例題が汎用的なため、より実務に即したオリジナルの研修コンテンツを開発したと北川氏。たとえば、ExcelからWMSに入力するというような事例演習を用意したという。応用操作でもWMSでよく利用するツールを取り上げたと同氏は説明する。
そして、このような自社業務にフィットしたコンテンツをもとに研修を開催している。研修の種類としては、基本的なシナリオ作成を習得する初級研修、自習で開発した際の悩みを解決する開発サポート研修、業務棚卸しやRPA化業務の選定手法のためのアセスメント研修などがあり、全国で週3日の頻度で開催されているという。
情報共有ツールの活用に関しては、同時期に導入したクラウド版マニュアル作成ツールを活用し、「やりたいこと」を動画で共有していると北川氏は述べる。
このツールにより全社員が簡単に動画キャプチャできるようになったことから、研修の参加者は、オペレーションの様子をキャプチャすることで自分がやりたいことの動画をあらかじめ準備できる。研修の講師は、クラウド上にある動画を事前確認することで、研修のポイントを検討することができる。また、研修時には、参加者は自分が作りたいシナリオを動画で説明もでき、そのシナリオが完成した際にも動画を使って手順を伝えることができるという。
このように研修の準備や進め方の効率が大幅に向上したことで、前述のような数の研修を開催することが可能になっていると北川氏は説明する。
また、作成したRPAシナリオは全国共通のデータベースで一元管理している。シナリオは画面動作の動画とともに共有されるので、ある地域で作られたシナリオを別の事業所で流用するという横展開や開発の気づきを喚起することが可能だという。
RPA導入の効果と今後の予定
これらの施策により、WinActor導入の効果としては、2018年度実績で見ると、RPAのシナリオを作成できることを認める社内認定「アソシエイツ」資格保持者が50人に達し、RPA化業務時間、つまり、付加価値創出時間は年換算で2万時間となり当初目標の1万時間の倍となっている。
2019年度目標は、社内認定アソシエイツの育成は100人以上、付加価値創出時間は18万時間となっている。
このような定量的な効果もあるが、RPA導入を働き方改革につなげたいということでは、定性的な効果の方が大きいと北川氏は述べる。社内のアソシエイツからは「目にもとまらぬ速さで処理され、何十年の事務作業がなんだったのかと思った」「自分のシナリオで自動処理されているのを見ると感動した」「相当楽になった」といった声が出てきており、従業員の働きがいの向上を実現できているという。
同社では今後、「WinActor Manager on Cloud」の導入によるライセンス管理や稼働管理の効率化を考えているという。RPAというと「野良ロボット」が話題となるが、北川氏は、最初の普及段階では「野良ロボットがいても良いのでは」ということで広げていきながら、管理ツールを使って後で駆逐するという考えを示した。
また、人工知能(AI)を活用した光学文字認識(OCR)であるAI OCRとの連携によりRPA化業務の幅を広げることや、WinActorを販売するNTTデータが認定する「アソシエイト」資格取得の奨励を予定していという(ニチレイロジの社内認定では社外に通用しない。NTTデータが認めることでニチレイロジ以外でもRPAのシナリオを作成できる能力があることを示せる)。また海外拠点への展開も検討しており、タイの拠点でトライアルを実施していると北川氏は述べた。