経営層のAI知見を高める--マイクロソフトが「AIビジネススクール」を提供

阿久津良和

2019-09-13 10:08

 日本マイクロソフトは9月11日、ビジネスリーダー層を対象に、AI(人工知能)人材の育成を目標とする「AIビジネススクール」日本語版の提供を開始した。AIビジネススクール日本語版は、グローバルビジネススクールのINSEADとの提携で開発し、製造と小売、・医療、金融、政府/公共機関の5業種を対象にしている。また、起業家・エンジニアの養成学校G's Academyとも連携し、ビジネスリーダーおよび社内エンジニアを対象にした有償の企業研修プログラム「AI Biz Camp」を10月から提供するほか、コミュニティーの「MS AI Guild」も併せて設立し、ビジネス協創の場とマッチングの機会を通じて受講後の事業変革を支援するという。

日本マイクロソフト社内でのAI実導入による効果(出典:日本マイクロソフト)
日本マイクロソフト社内でのAI実導入による効果(出典:日本マイクロソフト)

 マイクロソフトが外部に委託して実施した調査によれば、AIを戦略の中核として導入する国内企業は9%、検証中と答えたのは24%で、合計でも33%(2019年3月時点)にとどまる。だが、企業を取り巻く各種課題を踏まえれば、AI利用の戦略を策定し、実践するには、ビジネスにデータを活用する知見を持った人材が必要不可欠になる。同社ではAI活用の結果として、属性情報や活動情報から、直近で購買に結び付きやすい顧客を予測し、このターゲット顧客に対してAIでレコメンドしたシナリオを訴求することで、受注率が約3倍に向上したインサイドセールスの事例を挙げる。次に蓄積したデータのトレンドや関連性に基づくファイナンスの予測データを生成し、人的作業による予測値よりも高い精度を実現しながら、同時にファイナンス部門の残業時間50%削減に成功した社内事例も紹介。AI活用は実践段階にあることを強調した。

 他方で同社は、2020年度の経営方針の優先順位として「クラウド&AI人材の育成」を掲げている。グローバルでは「CLO(Chief Learning Officer)」職を新設して、デジタル変革(DX)を推進する人材の育成を進めてきた。3月には「AI Business School」を開設しているが、「1カ月半で180カ国からアクセスがあり、講習完了は25万アクセスを突破、5段階評価で4.8ポイントを得た」(同社執行役員 常務 マーケティング&オペレーションズ部門担当 岡玄樹氏)という。

日本マイクロソフト 執行役員 常務 マーケティング&オペレーションズ部門担当の岡玄樹氏
日本マイクロソフト 執行役員 常務 マーケティング&オペレーションズ部門担当の岡玄樹氏

 今回の施策はこの勢いを加速させるためと見られ、岡氏は、「これまでも技術的側面を支援するプログラムは実施してきた。(経営層や事業責任者のAI知見を高めるAIビジネススクールを通じて)技術とビジネスの間を補完し、ビジネスリーダーのスキルアップを図る」と説明している。

 AIビジネススクールは、経営層を対象としたAIと経営を融合したプログラムだが、多忙な経営層が受講しやすいよう短く分かりやすいコンテンツと、業種別のグローバル事例や実践的内容をカバーする。

 「経営層がAIに理解を示し、ビジネスモデルに転科させるかが鍵」と語るのは、テクノロジーとイノベーションを掛け合わせた造語「テクノベート・シンキング」を展開するグロービス経営大学院 経営研究科 研究科長の田久保善彦氏だ。同プログラムの実現に協力してきたグロービス経営大学院は、AIビジネススクールの意義として、「どのようにAIを使えば市場を作れるか、いかに新しいビジネスモデルを発想できるのか、目鼻の利くリーダーを作らないと先進企業に勝てない」(田久保氏)と強調しつつ、「(経営層も)テクノロジーを理解し、エンジニアと一定の会話ができないと使い物にならない。企業研修でもニーズは増えている。AIスクールそのものが、時代のニーズに沿って発展することを期待したい」(田久保氏)とエールを送った。

グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長の田久保善彦氏
グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長の田久保善彦氏

 上述の通り企業向けには、他社のAI変革を通じた成功事例をもとに、自社の変革を思考するワークショップや、座学のみならず手を動かしてAIを理解するハンズオン演習を行う短期集中育成プログラムのAI Biz Camp、参加者同士のコミュニティー作りも行われる。運営主体となるG's Academyのジェネラルマネージャーを務める児玉浩康氏は、「AI&デジタルは業務効率化を実現するツールではなく、企業戦略そのもの」としつつ、「『習う』ではなく『教え合う』ことで、全ての企業、全てのビジネスにAIが加わる世界の実現に近づく」と意義を語った。

 なお、AI Biz Campは1日からスタートし、キャンプ後はAIビジネススクールで自習。実際のコーディングはほぼ行わず、BIツールの活用やAPIを使ったノンコーディングを体験できる。

G's Academy ジェネラルマネージャーの児玉浩康氏
G's Academy ジェネラルマネージャーの児玉浩康氏

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