「ベイサイドで最も美しいキャンパス」--ヴイエムウェア本社オフィスを訪れる - 15/34

大河原克行

2019-09-19 06:00

 VMwareの本社は米国カリフォルニア州パロアルトにある。「ベイサイドで最も美しいキャンパス」と言われるこの本社は、2007年に移転して以降、「森の中のキャンパス」というコンセプトのもと7年をかけて整備、拡張され、まさに森に囲まれたように、社員が働くのに最適な環境が実現されている。同社の本社オフィスを訪れ、その様子を見た(本記事後半にフォトレーポートを掲載)。

 パロアルトは、多くのIT企業が集積するシリコンバレーの中心地だ。その中でもVMwareの本社は、「森の中のキャンパス」というコンセプトのもと、木々に囲まれた素晴らしい景観を生み出している。スタンフォード大学が所有する「Stanford Research Park」の中やそれに隣接する場所に位置し、東京ドーム約9個分の約42万5000平方メートルの敷地に、「HILLTOP」「CREEKSIDE」「PROMONTORY」という3つのエリアに18棟のオフィスが点在し、4800人の社員が勤務している。

 また、約1500本の樹木が並び、池には17匹のカメが暮らし、180匹以上の登録された犬が飼われている。カメは同キャンパスを象徴するキャラクターであり、それに関わる本が発行されたり、キャンパスを循環するバスの停留所にも描かれたりしている。社員は自分の飼う犬を連れてくることもでき、犬と一緒にキャンパス内を散歩する社員の姿が見られる。犬の餌を用意したり、犬のためのイベントを開催したりといったことも行われ、VMwareのGlobal Meetings & Events SpecialistであるJeff Goodall氏は、「犬に優しい会社」と表現する。

VMware Global Meetings & Events SpecialistのJeff Goodall氏
VMware Global Meetings & Events SpecialistのJeff Goodall氏

 そして、「ベイサイドで最も美しいキャンパス」と言われるように、多くの企業が訪問する。HILLTOPエリアは、現在の正面玄関に位置し、キャンパスの中では第2フェーズに位置付けられるエリアだ。キャンパスで2番目に大きな建物のHILTOPのA棟には、CEO(最高経営責任者)のPat Gelsinger氏をはじめとしたエグゼクティブが入居する。キャンパス最大のプロキュアメントチームが入居するE棟やジム、セミナーなどに利用するシアタールームも用意されているほか、PCが故障した際に修理を行う施設もある。「コーヒーやジェラートを食べている間に修理をしてもらえる施設」(Goodall氏)だという。

 もともとHILLTOPエリアは、製薬会社のRocheが1970年代から使用していた建物であり、主に研究開発部門が入居していたというが、それをVMwareが入手、リニューアルを行い、現在に至っている。コンクリートやれんがを使い、窓の小さい重厚なイメージだった建物をガラス貼りの建物にリニューアルした。自然光が入り、開放感を持った明るい雰囲気を持たせたのが特徴だ。

 HILLTOPエリアから丘を下るようにして、エンジニアが入居するCREEKSIDEエリアに歩くことができる。キャンパス拡張では第3、第4フェーズで作られた場所だ。ここも自然があふれ、バスケットやバレーボールのコート、フィットネスセンターなどがあるほか、太陽光電池が設置され、川の周りでバーベキューができるCREEKSIDE PARKもある。「このエリアには、鹿の親子がやってきたこともあるほど自然があふれている」(Goodall氏)という。

 ちなみにフィットネスセンターは、月20ドルで24時間利用可能で、ヨガ教室なども開かれている。カフェなどの食べ物は有料だが、会社から30%の補助がある。休憩室のコーヒーや菓子などは無償だ。同社によると、社員は毎年250万個のM&M'sのチョコレートを食べ、毎年2万1000ポンド(約9500kg)のコーヒー豆を消費しているという。

 なお、キャンパス内にランドリールームや仮眠室はないという。Goodall氏は、「会社に社員を閉じこめるような環境は作らない。家に戻って家族との時間を増やし、人生を楽しんでもらいたいと考えている」と説明する。キャンパス内には遊歩道や公園があり、外のピクニックテーブルで仕事をしたり、歩きながらミーティングをしたりする社員の姿もあるという。どんな場所でも無線LANに接続できる環境で、どこでも仕事ができる。「キャンパスを歩くことも奨励しており、ウォーキングがしやすいような形で設計をしている。従業員がアクティブに仕事をできる環境が構築されている」(Goodall氏)

 同社がパロアルトに移転した際の最初のエリアが「PROMONTORY」だ。ここには6つの建物があり、エンジニアが働く。Stanford Research Park内にあり、約9万3000平方メートルの土地をスタンフォード大学から借り受けている。スタンフォード市が同大学にこの土地を贈与した際、2階を超える建物は作ってはいけないこと、土地を売却してはいけないことなどが条件に盛り込まれた。だが、土地を貸し出すことは可能で、VMwareはその条件に則り、大学から土地を借りている。現在のStanford Research Parkには150社以上が進出し、VMwareは最大のテナントだという。

 「VMware創業者の一人であるDiane Greene氏の夫で、同じく共同創業者のMendel Rosenblum氏が、スタンフォード大学でコンピューターサイエンスの教授を務めており、同大学と緊密な関係があったこと、2007年に株式公開し、今後ビジネスを成長させるために、この地にVMware本社を置きたいと考えたことが背景にある。スタンフォード大学からは低価格でこの土地を借りられたと聞いている」(Goodall氏)

 VMwareはスタンフォード大学とカリフォルニア大学バークレー校の卒業生によって設立され、スタンフォード大学との結びつきは強い。PROMONTORYエリアの中には、発明家Thomas Edisonが、かつてウィスコンシン州に所有していた納屋の堅木張りのフローリングを床に再利用した建物もあるという。

 PROMONTORYエリアにもカメの棲む池がある。憩いの場として利用されたり、イベントがあると社員が池に飛び込んだりといったように、3つのキャンパスの中でも社員に好まれている。実は、創業者のGreene氏がここでコイを飼いたいと考えていたそうだが、池の水質で飼うことができなかった。

 ある日Goodall氏が、レストランに出向くとオーナーが腹を立てていたという。誰かがカメを持ち込み、衛生局から指導を受ける事態になってしまったからだった。そこで、カメを持ち帰ってもいいかという提案をしたら、「もって行ってほしい」と言われ、この池に連れてきた。誰も見ていないことを確認し、カメを池に入れたという。するとすぐに頭を出して泳ぎだした。その時のレストランの名称が「Rosati」であり、そこから「Rosie」と名前付けたという。

 Goodall氏は、毎日エサをやっていたというが、3カ月ほど経ったある日、エンジニアの一人が「池にカメがいることを知っていたか」というメールを配信した。Goodall氏は「見つかった」と思ったが、別のエンジニアが「カメには友たちが必要ではないか」と返事し、別のカメを連れてきた。その後、池から逃げ出すのが好きなカメ(“Steve McQueen”と命名)、隠れるのが好きなカメなど17匹がこの池に生息している。毎年「タートルデイ」を2日開催し、カメを池から出して、冬眠の準備を手伝うという。春には、冬眠から明けたカメを池に戻す。

 環境にやさしいキャンパスとしている点も特徴だ。VMware サスティナビリティ戦略担当バイスプレジデントのNicola Acutt氏は、「テクノロジーは地球の役に立つことができる。VMwareは二酸化炭素の排出や水の保全などにも取り組んでいる。今後も、サスティナビリティへの取り組みは欠かさない」とし、その具体的な活動について説明する。

VMware サスティナビリティ戦略担当バイスプレジデントのNicola Acutt氏
VMware サスティナビリティ戦略担当バイスプレジデントのNicola Acutt氏

 VMwareでは、「プロダクト」「プラネット」「ピープル」という3つの“P”から環境に取り組む。

 製品では、持続可能性の考え方を製品の中に組み込み、サプライチェーン全体にもクリーンオペレーションを持ち込んでいる。仮想化技術によって、二酸化炭素の排出量を6億6400万トンも削減したという試算もあり、これはスペイン、フランス、ドイツの電力使用量に匹敵するという。「プラネット」では、本社キャンパスなど各拠点で太陽光発電などによる再生可能エネルギーの使用がある。VMwareでは、2020年までにカーボンニュートラルの達成を目標に掲げてきた。その目標に対して、2年前倒しとなる2018年に達成。本社キャンパスでも太陽光発電を利用して独自のクリーンエネルギーを作り出し、電力消費を減らしていく活動を進めている。また、グローバル事業における再生可能エネルギー使用率100%を目指しており、海外の拠点では、太陽光発電に加えて風力発電にも投資し、既に85%を再生可能エネルギーから生み出しているという。インドでは、従業員の通勤プログラムとして電気自動車を導入するといった取り組みも行っている。

 その他に本社キャンパスでは、不要だった3つの建物を取り壊して太陽光発電装置を再利用したり、コンクリートや鉄などの廃材もほとんどリサイクルしたりした。看板にも古い鉄材を利用しているという。「古くなったものを捨てるのではなく、再利用できるようにしている」(Acutt氏)という。さらに、電気自動車など環境に配慮した車の購入を支援し、キャンパス内の駐車場に充電エリアを増やしている。

 キャンパス内ではゴミの仕分けが徹底されていて、社員の家庭で出た資源ゴミなども本社で回収し、リサイクル処理ができるという。

 そして「ピープル」では、人と社風の改革に取り組んでいる。「職場、家庭、コミュニティーで人々の生活を豊かにする包括的なビジネス環境を構築する」ことを掲げ、多様性への投資を加速すること、活気があるコミュニティーの形成支援、社員の生活に持続性を取り入れる支援などを行うという。

 社内には、「サービスラーニングプログラム」と呼ばれる仕組みがある。年40時間は非営利団体やコミュニティーでボランティア活動を行うための時間を用意するが、それによって給料がカットされることにない。現在2万人の社員が8000以上の組織をサポートしているという。「支援したり、学んだりすることがVMwareの文化の中に埋め込まれている。自ら学んでキャリアパスを形成することも支援していく」(Acutt氏)という。

 これまでプログラムコードを書くのは男性が多かったが、インドでは3000人の女性がこの仕事に応募し、多くの女性がコードを書く仕事に従事する。これも人の多様性や持続性などに対する支援の一つだとする。

 TechSoupとの連携もある。TechSoupは世界160カ国以上で、各国の非営利団体に対してソフトウェアなどのIT製品の提供やITのサポートを行っている。ITベンダーとの連携により、これまでに約55億ドル相当のIT製品やサービスを寄贈しているという。

 Goodall氏は、「自然に恵まれた環境のなかで仕事ができるのが本社キャンパスであり、VMwareの魔法を可能にしてくれる場所である」とする。テクノロジーカンパニーという側面が目立つVMwareだが、実は、製品や地球、人にやさしい企業を目指していることがうかがい知れた。

HILLTOPのA棟の中の様子。地下にはジムがある

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