他方で同社は各SaaSのAPI連携で業務プロセスを改善している。営業支援は「Salesforce.com」、ファイルストレージは「Box」、業務管理やワークフローは「kintone」のデータを取得し、Slackを業務プロセスの統合ユーザーインターフェース(UI)として運用中だ。別のアプローチでは経費申請承認にSlackと「Concur Expense」、作業結果報告にSlackとSalesforce.comにZoomを組み合わせている。
他にもSlackから会議の準備をして、遠隔参加者はZoomを利用、会議用フォルダをBoxに自動作成して、参加者へは資料を自社のCPaaS(Communications Platform as a Service)で送付する仕組みを構築した。同社は2020年から飯田橋の本社スペースを6割削減して、関東各所に分散化することで、通期時間を30分以内する取り組みに挑戦する。このように多様な働き方を可能にしているのは、プラットフォーム化したSlackの存在が大きい。

メルカリ IT戦略室長 成田敏博氏
バックオフィス業務を完結させる“パーソナルアシスタント”
フリーマーケットアプリケーション「メルカリ」を運営するメリカリは、創業当初からSlackを利用しているが、同社IT戦略室長 成田敏博氏「現在は『オープンであることを意識する』『チャットコミュニケーションの限界を理解する』『紳士的であることを心掛ける』と3つの指針で運営」していると説明する。
同社の社員数は約1800人ながらもSlackユーザー数は3425、週間アクティブユーザー数は2603、パブリックチャンネルは5380を数えるが、「ボットや業務委託パートナーにアカウントを払い出している」(成田氏)ためだという。
パワーユーザーや定着率、メッセージ数などを掛け合わせたスコアリングである「Maturity Score」は93と日本随一。「グローバルでもトップクラスに近い」(成田氏)とSlackを活用し、現在は運営するJリーグクラブチームである鹿島アントラーズへも導入中だという。

メルカリ 執行役員CIO 長谷川秀樹氏
メルカリではまたSlackをバックオフィス業務を完結させる“パーソナルアシスタント”として運用してきた。メルカリ執行役員で最高情報責任者(CIO)の長谷川秀樹氏が「世界一働きやすいIT環境を整備するため、ミッションとロードマップを全社員に公開」と説明、オンラインとオフラインの差異について次のように言及する。
「オンラインはカレンダーに会議のスケジュールを入れる必要がなく、同時並列に運用可能だが、オフラインだとプロジェクトは平行でも会議自体は直列に運営するため進みが遅い」(長谷川氏)
ネットワークに疎い方向けに“Slackは会議室が複数化され、自由に会議室に出入りできる世界”と説明し、同社はプロジェクトに関係しそうなメンバーを事前に追加し、個人判断で退出させているという。議事録もGoogle Docsを使ってリアルタイムに作成しているため、発言内容の修正もその場で完了し、後日の回覧や修正といったプロセスは存在しない。
ユニークな取り組みとして同社は“ピアボーナス(成果給)”制度の「mertip(メルチップ)」を採用しているが、Slackからmertipを送り合うことで合計チップが月の給与に反映する仕組みを構築した。また、「○○くれ」と投稿すると、社内の数字やデータ、スライドの場所を提示するボットを稼働させ、現在はバックオフィス業務の統一を目標にAIボットや各種業務を自動化するシステム構築を目指している。
このようにSlack文化が根付いたメルカリは、「Slackはチャットツールではない。オンラインプロジェクト会議室だ」(長谷川氏)とSlack導入の効果測定を強調した。