ビジネスの変革と技術を活用する“土壌”は理念から--アクセンチュア

國谷武史 (編集部)

2019-10-03 10:31

 ひと昔前、テクノロジーを駆使する新興企業が伝統的な業界や企業のビジネスモデルに大きな影響を与える「デジタル破壊」の波が注目を集めた。これ以降、デジタルトランスフォーメーション(DX)に代表されるテクノロジーを活用した新たなビジネスへの転換が多くの企業で課題となっている。この流れに乗り遅れる日本企業は、もはや戦略や組織のレベルではなく、経営理念やビジョンにまで踏み込んだ変革が必要だという――。

 アクセンチュアは10月2日、企業のビジネス変革に関する動向調査の結果を発表し、「デジタル破壊」を契機としたビジネスの変革が一過性ではなく長期的に進行していると指摘した。これによれば、過去8年間で72%の企業が「創造的破壊の規模拡大」を経験し、企業価値のうち41兆ドルものビジネスが破壊の対象になっているという。

アクセンチュア 通信・メディア・ハイテク本部 グループ最高責任者のOmar Abbosh氏。変革によって「潜在的収益価値」を手にする企業の戦略には7つのアプローチがあるという
アクセンチュア 通信・メディア・ハイテク本部 グループ最高責任者のOmar Abbosh氏。変革によって「潜在的収益価値」を手にする企業の戦略には7つのアプローチがあるという

 同日の説明会では、前最高戦略責任者で現在は通信・メディア・ハイテク本部 グループ最高責任者を務めるOmar Abbosh氏が、「デジタル破壊」のような大きな影響を与える事象の出現は一瞬だが、むしろ企業は長期にわたる「創造的破壊」を推進しなければならないと提起した。変革なきビジネスは将来的に収益機会を失うことにつながると述べている。

 その理由は、進化と変化のスピードが著しいテクノロジーを活用する企業は、ビジネスを変革させながら「潜在的収益価値(本来手にしているであろう収益や価値)」を獲得しているという。しかし多くの企業は、数年先を見据えたビジネス戦略を策定、遂行している。同氏は、これではテクノロジーの変化や進化のスピードに対応できず、収益や価値を手にできないと語る。

 今までビジネス戦略の基本は、「圧倒的な有形資産(大量の資源や資金、人材などを指す)によって競争相手に打ち勝つ」という19~20世紀型になる。一方、「デジタル破壊」をもたらす進行企業は、安価で使いやすいテクノロジーを“無形資産”として最大限に活用する。

 Abbosh氏は、伝統的な業界や企業が長期にわたる変革を進めていくには、大局的、多面的な視座からビジネスの状況(旧来型ビジネス、中核的ビジネス、新規ビジネス)を認識し、それぞれに応じてバランスのとれた投資が必要だと話す。例えば、Netflixは、元々はレンタルDVDの配送ビジネスを手掛けていたが、インターネットやデバイスの普及を捉えることで動画配信ビジネスへの変革に成功したとされる。さらに現在は、視聴データなどを駆使して“作品”も創造する企業に変革しつつある。

 こうした動きは、企業の時価総額ランキングの変化からも読み取れるという。戦略コンサルティング本部 マネジング・ディレクターの中村健太郎氏は、時価総額トップ10の顔ぶれが、グローバルでは資源・エネルギーや製造の大企業からIT・テクノロジーの企業に移り変わったのに対し、日本はほとんど変化がないと指摘する。

アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 通信・メディア・ハイテク アジア太平洋・アフリカ・中東・トルコ地区統括 マネジング・ディレクターの中村健太郎氏
アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 通信・メディア・ハイテク アジア太平洋・アフリカ・中東・トルコ地区統括 マネジング・ディレクターの中村健太郎氏

 グローバルでは、伝統的な企業がテクノロジーを活用して価値を高めるととも、テクノロジー企業などの成長が加わる形で全体としての時価総額が拡大した。一方で日本は、伝統的な企業が既存ビジネスをうまく持続させているとも見なせるものの、テクノロジーを活用したビジネスの変革という面ではグローバル並みの動きは見えづらいとしている。

 同氏は、日本の伝統的な大企業が変革を進める上で、既存ビジネスの枠組みを改善していくだけでは不十分であり、経営理念やビジョンといった本質にまで踏み込む必要があるとも指摘する。その理由は戦前、戦中に創業した伝統的な企業の理念、ビジョンがモノや精神の豊かさを追求することを掲げているからだという。現代の日本社会においてモノの豊かさが満たされているとすれば、企業は創業した時代の社会情勢に基づく理念やビジョンを堅持する必要性は薄い。現代に照らしながら理念やビジョンのフォーカスをモノから精神に変えていくようなことも必要だと語った。

伝統的企業と新興企業の時価総額が近い場合でも、伝統的企業は有形資産の割合が高く、新興企業は無形資産の割合が高い。伝統的企業の戦略は豊富な有形資産を生かして競合を圧倒するもので、新興企業の戦略は技術や知財など無形資産を駆使するという根本的な違いあるとする。変化を推進するなら、方法や戦術のレベルではなく企業の存在意義にまで踏み込むべきという
伝統的企業と新興企業の時価総額が近い場合でも、伝統的企業は有形資産の割合が高く、新興企業は無形資産の割合が高い。伝統的企業の戦略は豊富な有形資産を生かして競合を圧倒するもので、新興企業の戦略は技術や知財など無形資産を駆使するという根本的な違いあるとする。変化を推進するなら、方法や戦術のレベルではなく企業の存在意義にまで踏み込むべきという

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