デジタル時代を支える顧客接点改革

第3回:デジタルを起点とした次世代の店舗ビジネスモデルの方向性

照井栄介、里泰志、花原諒 (クニエ)

2019-10-07 07:00

はじめに

 Amazonなどのネット企業への対抗策がなければ淘汰(とうた)される時代。リアル店舗を強みとする小売各社はデジタル技術を活用した次世代の店舗ビジネスモデルの検討に着手している。

 例えば、コンビニ業界においては2018年の売上高成長率は2017年比で2%、店舗増加率は1%と、成長は鈍化傾向にある。加えて、今後さらに深刻化する人手不足への対応も喫緊の課題である。コンビニ各社は、人手不足を解決し、かつ売上増を実現するための新たな店舗ビジネスモデルを模索している。

 今回は、国内/海外の事例などを参考としつつ、デジタルを起点とした次世代の店舗ビジネスモデルの目指す方向性を考察する。

日本の小売業における企業課題とデジタル技術を活用した取り組み事例

 労働力不足や慢性的に低い労働生産性を背景に、日本においてもテクノロジーを活用して省人化に取り組む事例が見られるようになってきた。

レジ無人化によるレジ業務の削減

 コンビニ業務の約40%はレジ業務であり省人化の余地は大きい。これに対して、ローソンは、「ローソンスマホレジ」というサービスを導入した。ローソンスマホレジとは、スマートフォンにインストールした専用アプリを使って、顧客自らが商品バーコードを読み取って決済できるサービスである。

 また、ファミリーマートは関係者に限ってではあるが、顔認証による自動決済サービスの実証実験に取り組んでいる。このような無人レジサービスにより、大幅な従業員のレジ業務の軽減が期待できる。

電子値札を活用したダイナミックプライシング

 現状、価格変更の際には、一つひとつの値札を従業員が手作業で付け替えており、非常に工数が掛かっている上、需給に応じたタイムリーな価格変更を行うことができない。この課題に対して、トライアルカンパニーやファミリーマートは電子値札を導入し、従業員の業務効率化に挑戦している。加えて、需給に応じたダイナミックプライシングにもトライしている。さらに、ファミリーマートでは、従業員募集やセール情報などを適宜表示することで顧客へのメッセージや販売促進などにも活用している。

カメラ画像を活用した欠品把握と売り場作りの最適化

 トライアルカンパニーでは、商品棚の上部にカメラを設置することで、常時、在庫状況や顧客の行動データを取得し、適切なタイミングでの商品補充や顧客属性に合わせた品ぞろえの最適化に取り組んでいる。また、ファミリーマートでは、店内に設置したカメラで欠品を検知し、従業員が装着するウェアラブルデバイスへ通知。通知を受けた従業員は、デバイスに表示される欠品している商品と位置を見ながら、スムーズに商品補充を行える。

海外事例から学ぶ“顧客視点に立ったサービス設計”の重要性

 米国や中国では、小売店舗でのデジタル技術を活用した取り組みが非常に進んでいる。両国の事例に共通したリアル店舗のデジタル化の要訣とは、“顧客視点に立ったサービス設計”と考える。

顧客視点の欠如による失敗

 2017年以降、中国では完全無人コンビニが乱立した。小スペースへの出店によるテナント料の削減と人件費の削減により、既存の店舗よりも少ない売り上げで多くの利益が得られるといううたい文句であった。日本の小売業界からも、人手不足の解決につながる新たな店舗フォーマットとして、大きな注目を集めていた。しかし、現状、無人コンビニのほとんどが閉店してしまっている。その原因は、“顧客視点を欠いたビジネスモデル”と考えられる。

 無人コンビニは、小スペースであるが故に商品バリエーションが少ない上、従業員による売場管理が実施されなかったため、大量の欠品が発生したり、商品が乱雑に並んでいたり、鮮度管理が適切に行われていなかったりなど、顧客の購買意欲をそぐような売り場となってしまっていた。また、顧客にとっては、事前にアプリを登録して入店ゲートで専用のアプリを立ち上げ、表示されたQR(二次元)コードを読み取らなければ入店できないといった手間が発生する。近くに気軽に入れて、鮮度管理の行き届いた商品がきれいに陳列されている店舗があれば、そちらを選択するのは想像に難くない。

 中国無人店舗を運営するBingoBoxによると、中国の一般的なコンビニに比べて無人コンビニの運用コストはわずか15%にとどまるため、1日の売り上げが約1万5000円の場合、2年で投資コストを回収できると試算していたが、2018年9月中旬時点で293あった店舗のうち、1日の売り上げが1万5000円を超えていたのはわずか40店舗であった。逆に108店舗は1日の売り上げが4500円にすら及んでいなかったとする報告もある。

 同様に、顧客視点が欠如していたがために失敗した事例としてWalmartが挙げられる。同社は、無人レジ店舗の「Amazon Go」に対抗し、消費者自らがスマートフォンでバーコードを読み取り決済する「Scan&Go」方式の実証実験に取り組んだ。しかし、「顧客のアプリ使用率の低さ」と「万引き」により、発表からわずか4カ月で実験の中止を発表した。これについて、全米食品商業労組の「Making Change at Walmart」を率いるRandy Parraz氏は、「レジ業務のコスト削減を目的として、顧客自身に決済を担わせるような考えは、顧客に納得してもらえない」と語っている。

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