5~10年後はエクサ級コンピューティングをエッジに--HPCとAIの近未来

渡邉利和

2019-10-08 06:00

 日本ヒューレット・パッカード(HPE)は、9月に「HPE HPC&AIフォーラム 2019」を開催した。「HP-CAST(Consortium for Advanced Scientific and Technocal)Japan」という学術研究機関などのユーザーを中心とするグループのイベントとして企画されたもので、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)と人工知能(AI)に関するソリューションの先端動向を取り上げた。講演者として登壇した米Hewlett Packard LabでAI Chief Technologistを務めるSorin Cristian Cheran氏に、AIに関する取り組みや現在の研究開発の方向性、将来展望などを聞いた。

--HPEのAIへの取り組みの全体像はどのようなものか。

 まず、AIソリューションに注力している。これはユーザーが抱える問題を、AI技術を活用して解決するという意味だ。同時にHPEでは、こうしたAIソリューションを実現する“イネーブルメント(Enablement)”にも注力している。

 イネーブルメントの部分に関して注目しているのは、アプリケーションをどうやって実現するか、アプリケーションが何を必要としているのかという点になる。アプリケーションは、エッジからクラウドまでのさまざまな場所で実行されるため、HPEではこれら全ての領域をカバーするインフラスタックを構築している。このスタックには、オーケストレーションやデータレイヤーの機能なども含まれる。

米Hewlett Packard LabでAI Chief Technologistを務めるSorin Cristian Cheran氏
米Hewlett Packard LabでAI Chief Technologistを務めるSorin Cristian Cheran氏

 オーケストレーション領域でHPEは、2018年11月にBlueDataの買収を発表した。同社は元々、AIやビッグデータアナリティクスのためのソフトウェアプラットフォームを提供していたが、HPEのソリューションと統合することで、オーケストレーションレイヤーを実現している。AIのソフトウェア開発やデプロイメント、オペレーションなど、さまざまな要素を納める“容れ物”としてオーケストレーションレイヤーを活用できる。さらに、ユーザーのAIソフトウェア開発のために役立つ、HPEが持つさまざまな知的資産やナレッジもオーケストレーションレイヤーに組み込んでいる。

 さらに、今後重要になるAIOpsやインテリジェントデータプラットフォームに関する研究も行っている。インフラをどうコントロールしていくかについて最適なパターンを導き出すため、インフラから得られる大量のログやデータ、フィードバックなどの情報をAIに学習させている。

 われわれは、ユーザー企業が簡単にAIシステムをデプロイメントできるようなエコシステムの構築にも取り組んでいるところだ。例えば、実店舗でAIアプリケーションを稼働させる場合、実際にはさまざまな稼働条件を要求する多数のアプリケーションを組み合わせてシステムを構築するので、全体が正しく稼働するように必要なコンポーネントをインストールするのが簡単ではない。こうした環境の構築もオーケストレーションレイヤーが適切に管理するようになれば、ユーザーの負担を大幅に軽減できる。AIソリューションの多くは、ユーザー企業自身やパートナー企業が開発するだろう。そこでHPEは、主にインフラ層やオーケストレーションの部分に注力している。最近ではBlueDataやCray、MapRといった企業を相次いで買収したが、これらの企業のテクノロジーや製品もAIソリューションのイネーブルメントのために活用する。

 これら企業の買収より前に、HPEはNimble Storageを買収してAI分野で極めて重要な「InfoSight」を獲得した。InfoSightはNimbleストレージのみが対象だったが、HPEでまず3PARストレージに対応させた。その後、このテクノロジーがハードウェアプラットフォーム全てに適用可能だと分かり、InfoSightをベースにインテリジェントデータプラットフォームを構築した。オーケストレーションレイヤーからハードウェアプラットフォームを管理するために、InfoSightによるインテリジェントデータプラットフォームを活用している。この他にも無線LANシステムのHPE ArubaでもAIを活用している。セキュリティ機能の「IntroSpect」「ClearPass」がその例だ。

 顧客企業に対してHPEがAIに関する知見を有することを説明する際には、こうした自社内でのAI活用事例が有効だ。「ユーザー企業の問題解決のためのAI」「HPE自身で活用するためのAI」に加え、「将来AIで何が実現できるかをハードウェア/ソフトウェアの両面で研究する」という、3つの取り組みを進めている。

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