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電子署名で18日を22時間に短縮--ソニー銀行のデジタル化成功の勘所 - (page 3)

渡邉利和

2019-10-15 07:15

 日本では“紙の書類に押印する”という手続きが根強く残っており、法制度もそれを前提としてできあがっている部分がある。特に「実印と印鑑証明の信頼性は法的にしっかり守られている」(清水氏)ため、これを使わない電子契約は本当に大丈夫なのか、という不安を感じるのは無理からぬ部分がある。

清水陽介氏
清水陽介氏

 また、実は従来の業務プロセスは、「紙を回すことで業務が回る」という側面がある。裏返すと、紙が回らないと業務そのものが滞ってしまいかねないのだ。書類入れに大量の書類が積み上がっていれば視覚的に“やるべき作業がたくさんある”ことが瞬時に理解できるが、電子化されることでこうした直感的なわかりやすさは失われてしまう部分がある。

 こうした点に対応するために、従来の業務プロセスの見直しも必要だったという。業務のペーパレス化や電子化は、単に紙をなくしてデジタルデータに置き換えれば良いというものではない。紙を前提としていたワークフローからデジタルデータ前提のワークフローに移行し、担当者全員の意識変革まで行わないと回っていかないと説明する。

手戻りを削減して最短1時間に

 さて、Adobe Signを導入して電子契約を実現したことで、同社の住宅ローン業務はどのように効率化されたのだろうか。

 従来の業務プロセスでは、ローン契約の申し込み後、同社側から契約書を郵送、顧客が契約書に記入、実印をおして、さらに印鑑証明を添付して返送という手順だった。

 この手続きに要する期間は最短で3日だが、実際には平均17.8日を要していたという。契約書の記入が面倒、印鑑証明を取りに行く暇がない、といった理由で数日余分に掛かったり、返送された契約書に記入漏れ、印影不鮮明といった不備がある例も多いのだという。

 平均17.8日というのはこうした手戻りの結果であり、顧客と銀行の双方に無駄な手間が発生する上、手続きが完了しないと資金が得られず、顧客サービスの観点でも問題があることになる。

 電子契約の導入により、紙の契約書の郵便による往復がなくなり、最短で1時間、平均でも22時間で契約手続きが完了するようになったのが最大の成果と説明する。

業務プロセスの変化(出典:ソニー銀行) 業務プロセスの変化(出典:ソニー銀行)
※クリックすると拡大画像が見られます

 波及効果として、無駄な業務処理を削減、各担当者がより多くの時間を顧客対応に充てることができるようになったという。顧客接点強化が実現し、担当者1人当たりのローン実行件数が増加。コスト換算では、従来の業務コストと比較して約10%程度の削減効果があるという。

 紙の契約書を使わなくなり、納入義務がある印紙税も不要。顧客側で数万円程度の節税効果が生じており、導入によって実現された顧客メリットと語る。

 具体的な数値化は難しいとのことだが、契約完了までの期間を大幅に短縮したため、従来対応できなかった直近のローン申し込みも受け付け可能になったという。住宅ローンの場合、物件の契約が完了し、引渡日が確定した段階で申し込みとなり、支払日が間近に迫っている場合もある。「それまでに契約完了に至らない可能性が高い」という理由で断わらざるを得なかった案件のうち、電子契約導入によって受付可能になったものが一定数存在するようだ。

 実印と印鑑証明がないことによる法的な違いは、万一の係争時に銀行側に発生する、契約の有効性の立証義務だ。「非改ざん性」と「本人性」がポイントで、いずれもAdobe Signで確保できるという。同社では電子契約導入以前も含めて法的解決策が必要なトラブルは一件も発生しておらず、現時点では杞憂とも言えるが、万一の際にも問題ないことも導入の根拠となっている。

 操作方法が分からないなど、ユーザーからの問い合わせが寄せられることを想定した入念な準備をしていたそうだが、実際には全くないという。電子契約に不安を感じる顧客を想定し、従来通りの紙ベースのプロセスも残したという。顧客が任意で選択できるが、積極的に紙を選択した顧客はいないという。こうした結果からも、ユーザー側の利便性向上、同社の選択が間違いなかったことは明らかと言えるだろう。

(左から)ソニー銀行のローン業務部 業務企画課 シニアアドバイザーの清水陽介氏、ローン業務部 副部長 兼 業務企画課長重田浩治氏
(左から)ソニー銀行のローン業務部 業務企画課 シニアアドバイザーの清水陽介氏、ローン業務部 副部長 兼 業務企画課長重田浩治氏

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