ネットワーク技術の展示会「Interop Tokyo」では毎回、会場のインフラとなる「ShowNet」が注目を集める。2019年6月に開催されたInterop Tokyo 2019でのネットワーク構築プロジェクトについて、「結果を踏まえた詳細な内容を皆さまと供給することを目的」としたカンファレンス「shownet.conf_」が10月18日に開催された。
Interop Tokyo 2019開催中のShowNetの様子は、既報の通りだ。Interop Tokyo 2019会場で実施されていたShowNet見学ツアーに参加した際、クラスルーム形式での説明が20分程度、実際のラックを見ながらの説明が45分程度の計約1時間のスケジュールで一通りの説明を行っており、基本的には“完成したShowNetについて説明する”というスタンスだった。
これに対して今回開催されたshownet.conf_は、約5時間にわたってテーマごとの講演を聴くという形だ。情報量が桁違いだったのはもちろん、説明のスタンスも“どうやって作ったか”という設計や事前準備、実装作業の詳細など、“裏側”を説明する形になっていたため、当日会場で見学した展示の意味が改めて理解できるような構成になっていた。
まず「ShowNetの歴史と2019年度ShowNetのテーマ」と題して、ShowNet NOCチームメンバー ジェネラリストの渡邊貴之氏(ジュニパーネットワークス)が、shownet.conf_の開催趣旨や全体概要を紹介した。
最初の「ShowNetの歴史と2019年度ShowNetのテーマ」と題する講演を行った、ShowNet NOCチームメンバー ジェネラリストの渡邊貴之氏(ジュニパーネットワークス)
同氏は、ShowNetを「世界最大のリアル・ライブ・デモンストレーション」だと説明した。その意義を「2年後、3年後の業界に向けてメッセージを発信している」とした上で、2019年の取り組みでも「サービスチェイニング」や可視化といった要素が近い将来の業界の主要テーマとなることを見越した先取りであるとし、「日本における問題点に対するアプローチを示すもの」(渡邊氏)として実施されたという。さらに、ShowNetのコンセプトとして「市場と技術の最前線。未来が見えるネットワーク」というフレーズを掲げた。
その後、各担当者がテーマごとに講演した。講演タイトルは以下の通りだ。
- 「最新ルーティング技術SRv6によるサービスチェイニング」
- 「ネットワークの安定稼働を支える試験と測定環境の実現」
- 「“High Density Facility”~ファシリティの更なる高密度化へ~」
- 「クラウドサービスとオンプレミス監視システムの融合」
- 「柔軟なサービス展開を可能とするデータセンタネットワークと仮想化基盤」
- 「ShowNetの作り方」
- 「多様な環境に適応する無線LAN」
- 「高度なサイバー攻撃対策とマルチベンダ脅威情報の集約・活用」
- 「2019年度ShowNet全体総括とSTMプログラムのご紹介」
幾つかの内容を紹介する。まず、サービスチェイニングについては、基本的な仕様(SRv6:Segment Routing IPv6)はあるものの、実環境で運用するために必要な機能全てがそろっているわけではなかった。サービスチェイニングの基本的な考え方は、仮想化の発展に応じたNFV(Network Function Virtualization)の延長上にあるものだ。
従来はアプライアンスの形で固定的に実装されていたネットワークサービスを仮想化技術を活用して分離し、自由に組み合わせて活用できるようにすることが狙いだ。従来の手法では、SDN(Software Defined Networking)/NFVを活用していたが、構成が複雑になりがちだったり、スケーラビリティーに問題が生じたりといった課題もあったことから、IP経路制御技術に立ち返り、シンプルさとスケーラビリティーの最適なバランスを模索することで新しいアーキテクチャーの実装に取り組んだという。
ベースとして利用されたSRv6は、データプレーンとしてIPv6アドレスの利用でセグメントルーティングを実現するプロトコルだが、ShowNetの環境は大規模かつIPv6のみで構成されるわけではなく、IPv4の混在も考慮する必要があることから、SRv6の機能だけでは不足したという。そのため、IPv4 over SRv6のProxy方式として、ShowNet NOC(ネットワーク運用センター)チームが新たに考案した新技術と「End.AC」を開発、実装した上で、実際にShowNetで運用するに至った。この成果はインターネット標準として提案することも検討されているといい、まさに新技術が生まれる場となった例と言える。
「End.AC」のイメージ(出典:shownet.conf_ 資料)
また、裏方としての苦労が良く伝わってきたのは、Wi-Fiサービスの構築/運用に関するエピソードだ。Interop Tokyoの会場として使用される幕張メッセの展示ホールは、データセンターのようなIT機器の運用のために用意された建物ではないため、そこに大規模なネットワークを構築するためにはさまざまな苦労がある。Wi-Fiネットワークの構築も同様で、会期中は来場者のためのネットワークサービスとしての側面が注目されるWi-Fiネットワークも、設営期間中はスタッフの作業のための必須のインフラという位置付けになる。このため、万一トラブルが生じたりすると、担当者が他の全員から吊るし上げられるような状況になりかねないという事情が冗談交じりに語られた。
ShowNetの設計自体は、開催の半年ほど前からスタートしているという。だが現地での作業は、“ホットステージ”と呼ばれる会場の設備設営期間が9日間、“デプロイ”と呼ばれる、出展者各社の搬入/ブース設営期間(4日間)に続いて、“会期”が2日半、“撤収”期間は会期最終日の夕方~夜にかけての約半日足らずとなる。
この約半月の期間で、何もないまっさらな場所に大規模なネットワークを作り上げて稼働状態まで持っていき、会期中に安定的なサービスを提供した後、わずか半日で全てを片付けて撤収するだけに、そのサイクルの時間的な速度の速さが規模の大きさと同じくらい重要なポイントとなっているわけだ。通常会場で目にするのは「完成したネットワークが運用されている」という状態だけなので、ピンとこない部分も多いが、こうした機会にその各フェーズでの作業内容やその困難さを具体的な体験談として聞くことで、改めてShowNetの凄さが理解できる。同時に、この取り組みがもはや日本でしか行なわれていないという事実の重みもまた、体感できたような気がする。
2019年6月に開催された「Interop Tokyo 2019」のShowNet
2020年のInterop Tokyoは、東京五輪の影響もあって会期が前倒しになり、4月開催となる。そのため、既に来年に向けたShowNetの設計作業はスタートしているとのことだ。また、来年も今回のshownet.conf_と同様のセミナー形式の情報発信が行われる予定といい、関心のある方はぜひ参加をお勧めしたい。