SAPは、「Leonardo」ブランドで機械学習への取り組みを進めている。機械学習はERP(統合基幹業務システム)とSAPが展開する業務アプリケーション群にとって重要な土台技術となるが、最新の動向はどうなっているのか--SAPが10月中旬にスペイン・バルセロナで開催した「SAP TechEd Barcelona 2019」で、機械学習アプリケーションのトップを務めるUlf Brackmann氏に聞いた。
機械学習を含む「SAP Leonardo」は、2017年に発表されたブランドだ。SAPは現在、データの管理や活用を中心としたプラットフォーム「Business Technology Platform」を打ち出しており、Leonardoはその一部となっている。Business Technology PlatformについてBrackmann氏は、「デジタル化だけではなく、デジタル変革のジャーニーを支援するプラットフォーム」と説明した。
機械学習分野での最新のニュースは、9月に開催した「SAP TechEd Las Vegas 2019」で発表した「SAP Leonardo AI Business Services」だ。機械学習を活用してビジネスプロセスを最適化したり自動化したりサービスで、チケットのカテゴリーを自動で分類して問題解決を提案する「Service Ticket Intelligence」、非構造化の情報を含む書類をデジタル化してその内容を抽出する「Document Information Extraction」などが発表されている。

SAPで機械学習アプリケーションのトップを務めるUlf Brackmann氏
SAP Leonardo AI Business Servicesの狙いについてBrackmann氏は、「機械学習を再利用可能なサービスにすること。顧客が抱えているさまざまなビジネス上の問題解決を支援するサービスのポートフォリオ」と説明する。企業におけるドキュメントに関しては、現在もそのプロセスでマニュアルの作業が発生している。紙はもちろんのこと、デジタルフォーマットであっても中身を理解するために、人がドキュメントを見て情報を抽出し、システムに入力するなどのステップがある。Document Information Extractionはこれを自動化する。「顧客はこれを既存のビジネスプロセスを組み合わせることができる」(Brackmann氏)という。
SAPが、2019年内の提供を予定しているサービスの1つが「Data Attribute Recommendation」だ。データを自動的に分類したりマッチングしたりするもので、マスターデータの管理の品質と信頼性を改善できるという。
ある大手鉄鋼企業は、新しい素材の注文で発生するマニュアル作業を自動化した。素材をグループに分類する必要があり、ここで発生していた分類作業でのミスを、Data Attribute Recommendationを利用して正しいグループに自動的に分類できるようになったという。「導入前は新しい素材の21%でエラーが発生していたが、エラー率を改善できた。また、自動化の比率が上がったことで作業の効率化も図れている」とBrackmann氏は語る。
このほか2019年中に提供するサービスとしては、「Document Classification」「Named Entity Recognition」「Invoice Object Recommendation」などがあるという。
機械学習の適用分野としては、自動化を改善できるところ、つまりは反復の多い作業が中心であり、メリットも「自動化の改善」「人によるエラーの削減」の2つが多いという。Brackmann氏はまた、画像の利用もトレンドに挙げる。例えば、社員がPCを買い換える際に既存のPCを撮影してモデルを注文したり、サービスサポートが故障箇所を写真に撮ったりしてもらい原因を分析する--などの利用だ。「機械学習はこれまで不可能だったことを可能にしている」(Brackmann氏)という例になる。
さらに、このところSAPが進めているのは、RPAとの連携だ。2018年後半より「SAP Intelligent Robotic Process Automation」としてRPAを提供している。「RPAは統合のレイヤーとなり得る。インボイスをメールで受け取り、メールからSAP Cloud Platformのサービスに送って処理し、S/4HANAなどのシステムに戻す必要がある。この部分をRSAにより自動化できる」とBrackmann氏は例を挙げ、「RPAはサービスとプロセスを結びつける役割を果たすことができる」とした。また、チャットボットの「SAP Conversational AI」などとの相性も良いという。
これらについてBrackmann氏が強調するのは、「SAPにとって機械学習のフォーカスは技術ではなく、ビジネスバリューを加えることができるかだ」という。SAPの最高技術責任者(CTO)、Juergen Mueller氏は「200以上の機械学習ユースケースがある」と述べており、「S/4 HANA、FieldglassなどのSAPアプリケーションに組み込むことで価値を提供する」とBrackmann氏はいう。そこでLOB(Line of Business)アプリケーションチームとの協業が重要になる。
「LOBアプリケーションチームは専門知識を持っている。顧客がどんな問題を抱えているのか、どのような作業をマニュアルで行っており自動化のチャンスがあるのかなどを理解して、われわれが持つ機械学習の専門知識と組み合わせてサービスを開発できる」とBrackmann氏。
Salesforce.comがIBMと機械学習で提携するなどの動きがある中、他のベンダーの機械学習との関係をどう考えるのか。Brackmann氏によると、Google、Amazon Web Services、Microsoftなどのクラウドベンダーの機械学習とは提携を進めていくようだ。「われわれのフォーカスはビジネスバリューを加えることができるところ。音声のテキスト変換などはクラウド事業者の技術を利用できる」と、同社の立ち位置を説明した。
提供形態についても、製品に統合された形で提供する機械学習もあれば、追加機能として提供する形もとる。フォーカスはサービスベースのアプローチだ。SAP Cloud Platformで導入した消費ベースの販売モデル「Cloud Platform Enterprise Agreement(CPEA)」でも購入できるようにする。
「将来、機械学習はコモディティーになる。われわれがユースケースを開発するのと同じツールを顧客にも提供しており、簡単に開発ができる」とBrackmann氏。開発者の広がりとともに、「ユーザーは機械学習かどうかを気にせずに使うだろう」と予測した。