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内山悟志「デジタルジャーニーの歩き方」

デジタル時代の到来は何を意味するのか

内山悟志 (ITRエグゼクティブ・アナリスト)

2019-11-13 06:00

 デジタル時代の到来が叫ばれており、多くの企業において新たな世界観や経済環境の中で生き残り、優位を勝ち取るための変革が求められています。本連載では、デジタル時代に目指すべき企業像やその実現に向けた企業の変革の進め方について考察していきます。

全てのデータがつながる時代の到来

 デジタル時代の到来が叫ばれていますが、それは企業にとって何を意味するのでしょうか。デジタル化やデジタライゼーションという言葉は、非常に広範な概念であり多義的に活用されるため誤解を招きやすいと言えます。また、人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)に代表されるテクノロジーの進展、シェアリングエコノミーやプラットフォーム戦略などの新たなビジネスモデルの台頭、テックベンチャーへの投資や合併買収(M&A)などによるエコシステムの構築といった新たな経済活動の広がりといったさまざまな事象が同時並行で進行しており、そのような現象のあらゆる場面で「デジタル」が語られるために、多少混乱気味とも言えます。

 それでは、「デジタル時代」とはどのような時代を指しているのでしょうか。さまざまな捉え方があるものの「デジタルが当たり前になった社会」の到来を意味し、「全てがデータでつながる時代」というのが1つの重要な視点と言えます。

図1.全てのデータがつながる(出典:ITR)
図1.全てのデータがつながる(出典:ITR)

 「全てがデータでつながる時代」では、生活者の衣食住、交友関係、健康状態、購買・移動などの行動に関わる情報にとどまらず、気候や交通などの環境に関わる情報、企業における事業や業務に関わる営みなどあらゆる情報をデジタルデータとして捕捉できます。そして捕捉したデータは、分析や予測に活用され、その結果が実社会にフィードバックされます。AIやIoTは、このようなデジタル社会を実現するための技術要素であり、シェアリングエコノミーやプラットフォーム戦略は、それを活用した事業形態のバリエーションと捉えることができます。また、ベンチャー投資や業務提携はそのような経済環境で生き残ったり、競争力を高めたりするための企業戦略の施策と言えます。

アフターデジタルの世界観

 「全てがデータでつながる時代」を前提にすると、社会システムの在り方や世界観を大きく転換して考えなければなりません。これまでの世界観では、リアル(店や対面)で接点を持つ人が、たまにデジタル(EコマースやSNS)でもつながるというのが一般的な考え方でした。しかし、モバイルやIoTの浸透によってあらゆるデータが捕捉可能となると、リアルの世界がデジタル世界に包含されます。2019年3月に出版された『アフターデジタル』(藤井保文・尾原和啓著、日経BP社)では、このような現象を“アフターデジタル”と呼んでおり、デジタルで常に接点があることを前提とし、リアルな接触はその中の特別な体験の一部となると説明しています。これは企業と顧客の接点のみを指すものではありません。バリューチェーンやエコシステム内の企業間の取引関係、生産活動を含む企業内の業務プロセス、人の移動や物流など、あらゆる社会的・経済的活動がデジタルでつながることを前提とし、リアルなやりとりや業務はそのつながりの一部となることを意味します。

 最も政府の電子化が進んでいるといわれるエストニアやキャッシュレス決済が当たり前となっているスウェーデンなどの北欧諸国、デジタライゼーションと経済成長が同時進行している中国やアジア諸国などは、アフターデジタルの世界観を前提として社会システムが成り立っているといっても過言ではありません。同書では、日本企業はこのような新しい世界観に対する認識が低く、世界から大きく後れを取っていると警鐘を鳴らしています。

図2.アフターデジタルの世界観(出典:『アフターデジタル』、藤井保文、尾原和啓著(日経BP社)をもとにITRが作成)
図2.アフターデジタルの世界観(出典:『アフターデジタル』、藤井保文、尾原和啓著(日経BP社)をもとにITRが作成)

デジタルディスラプションの波動

 実は、デジタル時代の波は何年も前から起こっていました。デジタル技術やその活用を前提とした新たなビジネスモデルによって、既存企業の優位性や従来の業界構造を破壊するような現象をデジタルディスラプションと呼びますが、その最初の波は、主力の製品・サービスやその取引プロセスが容易にデジタル化される領域に押し寄せました。製品やサービスそのものがデジタルに置き換えられたハイテク業界および通信業界、ニュースや音楽などのコンテンツがデジタルメディアを介して提供されるようになったメディアおよびエンターテインメント業界、取り引きがオンライン化された金融サービスなどがその第一波の襲撃を受けました。

 そして今、製品・サービスのみならず、ビジネスモデルやプロセス、バリューチェーンをも飲み込むビッグウェーブとなる第二波がB2B企業を含むあらゆる業界に押し寄せています。第二波の特徴は、従来のバリューチェーンを破壊(アンバンドル)し、異なる組み合わせの融合によってエコシステムを形成し、新たな顧客価値や市場を創出することです。

 銀行業と小売業、通信業とヘルスケアなど業種を問わない融合が発生しており、プラットフォーマーと呼ばれるデジタル勢力が業界をまたいだ事業を展開し、従来の業種の境目を曖昧にしている。このビッグウェーブを回避することはもはやできません。

図3.デジタルディスラプションの第2の波(出典:ITR)
図3.デジタルディスラプションの第2の波(出典:ITR)

 これまでもテクノロジーの進化が業界を破壊し、従来の仕事を奪ってきた歴史は繰り返されています。しかし、現在の「デジタル」という言葉で表現される変化は、時間の単位がこれまでと大きく異ります。例えば、新しい技術が生まれてから50%以上の人々が使うようになるまでの年数では、自動車は80年以上かかり、テレビは30年、インターネットは20年未満となり、携帯電話は10年ほどと言われていますが、スマートフォンでは5年しかかかっていません。

 こうした物理的なモノの普及や進展もさることながら、それを使ったビジネスや暮らしの変化はさらに速いスピードで広がっています。店舗に行かずにネットで買い物をする、音楽をダウンロードして聞く、辞書を引かずにスマートフォンで検索するといった私たちの行動の変化は、知らず知らずのうちに浸透しています。さらに、InstagramやYouTubeの情報やコンテンツは一瞬にして世界中を駆け巡ります。インターネットやスマートフォンなどの物理的なモノの普及が基盤となって、その上で新しいビジネスやサービスが迅速に展開でき、さらにそれらを使った体験が瞬く間に共有され、伝わっていくのです。

 企業の対応にも迅速性が求められます。これまでは、既存の事業で培った強みを維持しつつ、新たな価値観や行動様式を、時間をかけて身に付けていくことができましたが、デジタル時代ではそのような時間的な余裕はないのです。

内山 悟志
アイ・ティ・アール 会長/エグゼクティブ・アナリスト
大手外資系企業の情報システム部門などを経て、1989年からデータクエスト・ジャパンでIT分野のシニア・アナリストとして国内外の主要ベンダーの戦略策定に参画。1994年に情報技術研究所(現アイ・ティ・アール)を設立し、代表取締役に就任しプリンシパル・アナリストとして活動を続け、2019年2月に会長/エグゼクティブ・アナリストに就任 。ユーザー企業のIT戦略立案・実行およびデジタルイノベーション創出のためのアドバイスやコンサルティングを提供している。講演・執筆多数。

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