「デジタルの力で一人ひとりが輝く世界を」--NEC新野社長が基調講演 - 13/19

大河原克行

2019-11-08 07:00

 NECおよびNEC C&Cシステムユーザー会(NUA)は11月7、8日にかけて、都内で年次イベント「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO 2019」を開催している。26回目となる今回は、「Digital Inclusion~デジタルのチカラで、ひとりひとりが輝く社会へ~」をテーマに、人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)をはじめとする最新のソリューションと、これらを支える技術/製品を紹介。会期中に実施された50以上のセミナーでは、先進的な導入事例や同社の事業戦略などが紹介されたほか、展示会場では約50のテーマで最新の技術や製品を展示している。

 開催初日の基調講演には、NEC 代表取締役執行役員社長兼CEO(最高経営責任者)の新野隆氏が登壇。同イベントのテーマと合わせ、地球規模の社会課題解決を目指して同社が進めているデジタル技術の開発や、それらを活用した価値の拡大、社会実装への取り組みなどについて紹介した。

NEC 代表取締役執行役員社長兼CEOの新野隆氏
NEC 代表取締役執行役員社長兼CEOの新野隆氏

 “Digital Inclusion”とは、IoTやAIといったさまざまなデジタル技術が浸透した社会を示しており、実世界にあるさまざまなものを可視化・分析し、それに対処することで、社会のあらゆるものを高度化していくという考え方だ。全ての人がデジタルの恩恵を享受でき、人が充実感と活力を感じることができる社会を実現することを目指すものと位置付けた。

 新野社長は「デジタルが当たり前になり、世界中の一人ひとりがデジタルの恩恵を受け、課題解決をしていくことになる。全てを可視化・分析し、少し先を予知して社会の課題を解決する。また、年齢・性別・人種には差がなく、全ての人がデジタルの力で多様な能力を発揮できるようになる社会」とし、「NECはDigital Inclusionに対して、安全・安心・効率・公平といった価値を提供し、人が豊かに生きる社会を実現したい」と語った。

 基調講演の冒頭、新野社長は1899年に創業したNECが2019年に120周年を迎えたことに触れながら、「NECは日本初の外資系企業として生まれた。電話機の輸入販売でスタートし、通信分野でイノベーションを続けてきた。1964年に世界初となる衛星によるテレビ中継を実現し、1970年には日本初の人工衛星を手がけて以来、これまでに70機の人工衛星をサポートしている。光海底ケーブルでは、世界3大ベンダーの1社で、NECだけで地球7週分の海底ケーブルをはわせている。AIについても、1960年代から手がけており、最初は手書きの郵便番号の読み取りからスタート。指紋認証や顔認証に取り組み、生体認証では先ごろNIST(米国立標準技術研究所)において5回目となる世界1位の精度が認められた」などとした。

 生体認証技術については、幾つかの事例を示した。1つは、アフリカのGaviアライアンスにおいて、NECの生体認証技術を活用して幼児の指紋を認証することで、ワクチンの投与を行う仕組みを構築した例。幼児の指紋は取得しにくいが、同社の技術はこの課題を解決できるという。もう1つはインドにおいて、指紋・虹彩・顔の3つの生体認証を活用して、10億人以上の国民IDを実現。国民が平等に社会サービスを受けるための認証を、人の存在そのものだけで確認できるようにしたという。

 ここでは、同社 バイオメトリクス研究所の幸田芳紀主任研究員が登壇。1997年の入社以来、20年以上にわたって生体認証関連のビジネスに従事している同氏は、Legal Identityを持たない人が全世界で11億人おり、その一方で、5歳未満で失われた命は年間560万人、生後4週間未満で失われた命は年間258万人に達していることを示しながら、「NECでは、生後2時間を含む生後24時間以内の新生児から、微細な指紋の撮像と照合に初めて成功した。赤ちゃんは自分の名前を言うことも、IDを見せることができない。生体認証であれば、赤ちゃんの存在をもって、誰であるかを認識できる。UNICEFでは適切なワクチン接種を生後14週以内に行うことを推奨している。だが、出生登録ができていないため対象者を特定できず、ワクチンを接種できないという課題がある。SDGs(持続可能な開発目標)では、2030年までに全ての人々に出生登録を含む、法的な証明を提供することを目標にしている。生体認証はこの実現に寄与できる」とした。

NEC バイオメトリクス研究所 主任研究員の幸田芳紀氏
NEC バイオメトリクス研究所 主任研究員の幸田芳紀氏

 新生児は水分が多いため、指紋表面を汗でぬらしてしまい、幼児以上に指紋の採取や認証が難しく、成人向けの認証アルゴリズムでは対応できない。NECでは、技術的にこうした課題を解決するとともに、その国にとって導入が難しくないこと、継続的に使えること、国民に受け入れられることが必要だと考え、そのための取り組みにも力を注いだという。

 こうした取り組みでの成果を受けて新野社長は、「新たな技術は人に受け入れられなくては意味がない。NECグループは、2019年4月にAIと人権に関するポリシーを発表し、社会に受容されるAIの提供に向けた活動を開始した」と発言。「公平性」「プライバシー」「透明性」「説明する責任」「適正利用」「AIの発展と人材育成」「マルチステークホルダーとの対話」という7つの観点からポリシーを設定したことを説明し、「AIには圧倒的な効率化を図る一方で、答えを発見したルールを説明できないブラックボックス型と、発見したルールを説明でき、人への示唆を高度化するホワイトボックス型がある。ホワイトボックス型では、NECが定めた透明性や説明する責任といったポリシーに適合したものになる」などと述べた。
 
 一方、新たなテクノロジーの事例として、iEXPO 2019の展示会場に出展した3つの技術について説明した。

 1つ目は量子コンピューターだ。「NECは、1999年に世界初の超伝導固体素子を用いた量子ビットの動作実証に成功しており、それ以来20年にわたって量子ビットや量子状態を制御するデバイスや回路の研究を行ってきた。現在、2023年までに本格的な量子アニーリングマシンの実用化に向けた研究を行っている。また、もっと早く新たなサービスを提供するために、ベクトルコンピューターを用いたシミュレーテッドアニーリングを2020年上期にはサービスとして提供する。これは10万量子ビット相当を実現するものになる」などとした。

 2つ目は第5世代移動体通信システム(5G)である。「キャリア向けには既に5G装置の提供を開始しているが、その一方で、ローカル5Gを活用した企業変革を提案しようとしている。会場に展示している事例では、5GとAIの組み合わせで建設機械の自律運転を実現。適応予測制御によって、少し先を想定しながら掘削作業を行うことができるようになる」という。

 3つ目はパーソナルデータの流通サービスだ。「データ活用は大きなメリットを生み出す一方で、個人情報の漏えいなどの課題がある。これを解決するために、NEC独自の秘密計算技術を活用することでデータを秘匿し、さらに複数のサーバーにデータを分散管理する。一部のサーバーから情報が漏えいした場合にも、そのデータだけでは意味を持たないため、データを保護することができるようになる」と説明した。

 一方で、NECのテクノロジーを利用した先進事例についても紹介した。

 アルゼンチンの主要4空港や海港などにおいては、入出国の管理などを行う移民局向け生体認証システムを導入。国連による電子政府ランキングで1位となったデンマークでは、電子政府システムの導入をほぼ一手に引き受けているKMDをNECが買収したことに触れた。ローソンでは、深夜0時から午前5時の時間帯に、従業員不在でも営業を可能とする無人店舗の取り組みを2019年8月から開始している。NECのグループ会社が入るビルでは、セブン‐イレブン・ジャパンとの協業によって、顔認証を活用して、商品をキャッシュレスで購入できる省人型店舗を展開。さらにセブン銀行向けには、顔認証機能を初めて搭載した第4世代のATMを開発したことなどに触れた。

 また、成田国際空港では、顔認証を利用してチェックインから搭乗するまでを、単一のIDで対応できるシステムを2020年春に稼働させる予定であることを発表。「利便性と安全性、安心を担保しながら、正確な本人確認とスピーディーな搭乗が実現できる。増加する訪日外国人にも対応でき、日本のおもてなしを具現化できる」と述べた。

 先進事例として動画を含めて時間を割いて説明したのが、和歌山県南紀白浜での「IoTおもてなし実証」だ。

 顔データを登録しておくと、空港からホテル・土産物店・エンターテイメント施設を、手ぶら、顔パス、キャッシュレスで利用できるというものだ。

 例えば、ホテルに到着するとフロントでは、顔認証によって名前を表示して歓迎し、顔認証で入室できる仕掛けになっている。男女が別々にホテル内の温泉に入っても鍵が不要なため、それぞれが好きな時間に部屋に戻ることができる。そのほか、ショッピングや海水浴にも手ぶらで行けるため、置き引き被害などを防止し、財布を持たずにお土産を購入できるという使い方が可能だ。

 顔認証技術を街全体として利用することで、利便性を高めるだけでなく、観光地としての魅力を高める効果も出ているという。

 加えて、全日本空輸(ANA)などが加盟するStar Allianceの「Star Biometrics Hub」においてパートナーシップを結んだことも紹介した。動画でメッセージを寄せたStar AllianceのJeffrey Goh CEOは、「自動化とテクノロジーの活用によって既存インフラのキャパシティーを向上させることが重要である。このプロジェクトによって、将来は飛行機の搭乗券を発行する必要がなくなり、生体認証だけで航空券を購入・搭乗できるようになる。さらに、レンタカーやホテルにも生体認証が採用されることでカスタマーエクスペリエンスを拡大できる」などと述べた。

動画でメッセージを寄せたStar Alliance CEOのJeffrey Goh氏
動画でメッセージを寄せたStar Alliance CEOのJeffrey Goh氏

 そのほか、ラグビーワールドカップ2019日本大会において、メディア関係者を対象にした顔認証システムの導入や、翻訳システムの提供、無線システムの提供などを行ってきたことに触れ、「この実績をもとに、2020年の東京オリンピック/パラリンピックでは、顔認証技術を活用して、史上最もイノベーティブに大会になるように支援したい」と述べた。

 今回の基調講演では、初めて公開するコンセプトとして「I:Delight」を発表した。これは、人々の生活における安心・安全を目指すもので、「NECが培ってきた高精度な認証やセキュリティの技術を活用しながら、エンドユーザーとのさまざまな接点をつなぎ、決済やマーケティング、おもてなしなどの領域に展開していくことで、社会変革に主体的に取り組んでいく」と述べた。

 最後に新野社長は、「NECはできたらすごいなと思うことを、一つひとつ実現してきた会社である。今後、デジタルを活用しながら、できたらすごいと言えるものを実現したい。ただ、これはNECだけではできない。共創を通じて、デジタルの力で一人ひとりが輝くDigital Inclusionの世界を実現したい」と締めくくった。

 下記は基調講演の資料スライド(一部)になる。

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