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イノベーション力を増す中国・深セン--日本企業はどう付き合うべきか

田中克己

2019-11-28 07:00

 「中国・深センのイノベーション力が増している」――。年率20%超で経済成長する深センは、2018年に香港を上回るGDP(国内総生産)約2兆4200億元(約40兆円)になるなど、アジア有数の大都市に発展した。約40年前は人口約3~4万人の漁村だったが、国内外から優秀な若い人材がどんどん集まり、約1300万人に達する。年50万人も増え続けたことで、平均年齢も2018年の33歳から2019年に32歳に下がったという。

 11月初旬に深センのイノベーション企業などを訪問した大手メーカーの元役員は「不気味」と成長スピードのすごさに驚いていた。現地のIT企業やコンサルティング会社、EMS(受注生産サービス)、深セン市、金融機関などの関係者から聞いた深センのIT最新事情をまとめた。

テンセントなど大手IT企業が本社を置く深セン

テンセントの本社ビル
テンセントの本社ビル

 SNS大手の騰訊(テンセント)や通信機器大手の華為(ファーウェイ)、ZTE、ドローン大手のDJI、電気自動車のBYD、検索エンジンの百度など、有力IT企業が深センに本社を構える。AppleやMicrosoft、Intel、サムスン電子、Airbusなど外資系企業も研究開発拠点を設ける。開発スピードを上げるためで、京セラなど日本企業も進出する。彼らとの協業関係を構築しようとスタートアップを含む約8000社のイノベーション企業も集める。そのスタートアップを金融と人材の両面から支援する政府系ファンドやベンチャーキャピタル(VC)も進出し、新しいビジネスを創出するエコシステムが形成されている。WeBankなど企業価値10億ドル以上のユニコーン企業は10社以上もある。

 深センの発展に詳しい現地コンサルタントは「経済特区に指定されたことと、隣に香港があったことが成長の大きな理由」と見ている。深センには金型、成型、組み立て、梱包、物流などのサプライチェーンがあり、香港のアイデアを深センの工場が実現していく仕組みがある。電子機器の試作から大量生産まで対応する日系企業の経営者は「ものまねだった技術力がどんどん上がり、2000年代に入って組み立ての下請け工場からEMSへと進化した」と、イノベーション企業へと変貌を指摘する。製品開発のスピードも、日本と比べて半分以下、コストは10分の1以下になったものもあるという。だが、日本の大手製造業はそれを生かす柔軟性に欠ける。例えば、「この材料は使わないでほしい」「10年間、部品供給してほしい」などと過剰な品質を要求する。旬な製品に対応する深センのエコシステムを理解していないということだろう。

 深センの成長をさらに加速させる政策もあった。中国政府は2017年、深センや広州など広東省の9つの市と、香港とマカオの2つの特別行政区で構成する地域をグレーターベイエリア(粤港澳大湾区)と呼び、シリコンバレーのようなイノベーション都市に発展させる計画を策定する。さらに2019年8月、国務院が深センに関して、「中国の特色ある社会主義先行モデル区を建設するための意見」を公表し、2025年までに「経済力と質の高い発展を誇る現代化、国際化イノベーション都市」に、2035年に「総合経済競争力で世界をリードする中国の模範都市」に、2050年に「競争力、イノベーション力や影響力で世界のベンチマークとなる都市」を目指す方針を打ち出した。

5Gを実験する店舗
5Gを実験する店舗

国内外から優秀な人材を集めて、イノベーション力を高める

 「深センは、シリコンバレーで生まれないものも生まれる」――。金融機関の現地責任者は、新商品を創り上げるイノベーション力を絶賛する。「こんなものが売れるのか」というものまで、試作品作りから市場調査まで可能な街だという。中心は第5世代移動体通信システム(5G)と人工知能(AI)などで、深セン市内の店舗のキャュシュレス化が進み、5G通信環境も整いつつある。市内を走るバスとタクシーは年内に全て電気自動車にするなど、先端技術を積極的に取り入れている。この11月には約160万平方メートルのアジア最大規模の国際展示場も開設した。

 それを支える優秀な人材を積極的に採用する。「来れば、あなたも深セン人」と言われるほど住みやすく、「香港より人が集まる」(現地企業関係者)という。例えば、2011年にスタートした海外ハイテク企業に勤める中国人を呼び戻す「孔雀計画」で、年に数千人規模で帰国しているという。能力に応じた支度金や給与を出したり、住居や子どもの教育などで優遇したりもするという。

 大学も誘致する。例えば、深セン市政府は1996年に清華大学と合弁で深セン清華大学研究院を設立し、研究員とスタートアップの共同研究から人材育成、資金援助をする。英国やドイツ、北米など世界の有力企業や研究機関との協業も推進しており、日本のみずほ銀行、日本貿易振興機構(ジェトロ)、京都大学などと関係を結んでいるという。同研究院の関係者は、2000社超を支援し、20社以上が上場を果たしたと成果を披露する。

 日本企業は、そんな先端技術の活用に対する中国のスタートアップやイノベーション企業に接近し始めている。2019年に入って、中国のクラウドサービスを活用した機械設備の故障予知や、中国スタートアップのIoT技術を活用し店舗の無人化に取り組むIT企業も出てきた。

 現地コンサルタントは「5年後、10年後を見据えて、中国企業との関係を考えること」と助言する。ある金融機関の現地責任者は「上から目線で見ていたら。判断を誤る」と、新たなビジネスチャンスを深センのイノベーション企業との協業で創り上げることを提案する。AIなど先端技術を米国に依存することから、中国も選択肢に加える時代になった。深センの訪問で、そんなことを感じた。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。

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