コンタクトセンターをクラウドにして“持ち運び”--テレワークとBCPを両立 - (page 2)

石田仁志

2019-12-12 07:15

複数のアプリケーション移行をDaaSで解決

 同社は、流通業の業務におけるBCP対策を最も重要な要素の一つと捉えているという。「お客様にモノを届ける際の不安を感じさせるわけにはいかない。飲食物も扱っており、災害発生時でも変わらない。その不安を穴埋めできるのはコンタクトセンターのスタッフとの会話。コンタクトセンター(自体の)のBCP対策は急務」(山口氏)と説明する。

 しかし、東京以外での新たな拠点構築にはコストがかかるばかりでなく、国内どこに構築しても被災リスクは避けられない。

 そこで考案したコンセプトが、クラウドベースという特徴を最大限生かす“持ち運べるコンタクトセンター”だ。しかし、人がいる通販サイトを標榜する同社業務の特殊性を考慮する必要があった。オペレーターは通常のインバウンド、アウトバウンド業務のほか、受注代行、ユーザー登録業務、販売店への商品情報作成業務、伝票処理業務、さらにはマーケティング調査まで幅広い業務をこなすという。活用しているアプリケーションも複数にわたり、PCのデスクトップでは常に複数のアプリケーションが稼働。環境をそのまま2台目用の端末に移植すると、手間もコストもかかってしまう。

オペレーターの操作画面例。多くのアプリを同時活用(出典:プラス)
オペレーターの操作画面例。多くのアプリを同時活用(出典:プラス)

 そこで浮上したのがDaaSだ。同社では、すでに全国の営業担当者向けシステムとしてAmazon Workspacesを採用。リモートワーク環境を実現し、働き方改革を実践していたという。「直行直帰が増えて残業時間も体感レベルで3割くらい減った」(山口氏)。成果も出始めていたと振り返る。

 同様にオペレーターのデスクトップ環境をAmazon Workspacesに移植。従来同様複数の業務アプリケーションにどこからでもアクセスできる環境を整備しつつ、Amazon Connectとの組み合わせで持ち運べるコンタクトセンターを実現。事業継続性の確保とテレワーク対応を両立したという。「他のメジャーSaaSも検討したが、データのインアウト速度、システムを利用しているときのレイテンシー(遅延)など、ユーザビリティ面でWorkspacesの方が良かった」(山口氏)

コンタクトセンターの環境構成(出典:プラス)
コンタクトセンターの環境構成(出典:プラス)

オペレーターのマインドに変化が

 新システムの稼働開始時には、帯域確保が十分でなかったことでトラブルも発生したが、回線を増設、社内とは別回線とすることで解決。録音や通話音声の品質向上にもつながっているという。

 システム面の変化もさることながら、何よりの効果として「コンタクトセンターで働いているオペレーターのマインドが変わった」と山口氏は指摘する。CTI基盤をAmazon Connectにしたことで、構築面での容易さに加え、感情分析やテキストマイニング、チャット機能などAWSが提供する多様なクラウドサービスとの連携が可能。できることが増えたという。

 これをスタッフに認識してもらうため、現場の声を聞きながらオペレーターの前でシステムやインターフェース、サイトのデザインを改善して見せた結果、「オペレーターがクラウドやAmazon Connectの“凄さ”を理解して、機能の改善や追加を積極的に提案しだした。オペレーターからクリエーターになった」(山口氏)という。

 その姿勢は顧客対応にも表れているようだ。ユーザーの意図を解釈する提案型の対応が増えたほか、CRMシステムの機能についても現場目線から積極的な提案が増加したという。それを受けて実際に来年、「CRMをスクラッチで作り直す」(山口氏)予定だという。

大型台風時もテレワークで安全に業務

 設備が大掛かりなコンタクトセンターは、本来オペレーターの出社が前提である。しかし、Amazon ConnectとAmazon Workspacesでクラウド上のCTIと業務アプリケーション群にアクセスする仕組みとしたことで、センター内ではゼロクライアント端末、外部では統制をかけたかけたDaaS用のモバイルPCとモバイルルーターの活用という運用体制を採用。どこでも電話が取れる、コンタクトセンター業務がテレワークできる環境を実現している。今年の大型台風発生時も「これまであれば閉めるしかなかったが、暴風雨の中オペレーターを出社させることなく業務を継続させることができた」(山口氏)と早速活躍しているという。

 働き方改革の側面でも効果を発揮しつつある。同社のオペレーターは複数の業務をこなす、高いスキルを持っているという。その多くは正社員で、基本的に子育てをする母親が多いという特長がある。テレワーク可能な環境が優秀な人材の離職防止にもつながるという。

 まだ試行段階だが「スタッフからの評判はいい」(山口氏)。これからオペレーターが自宅で働く際のシステム統制やルール作りなどの環境整備を進め、本格的にテレワークの実践を進めていく方針だ。

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