Amazon Web Services(AWS)が米国で開催の「re:Invent」で、企業のオンプレミス環境内にAWSのクラウド環境を構築する「AWS Outposts」を一般公開したのと同じころ、ハードウェア企業からアズ・ア・サービス企業へと転身を図るHewlett Packard Enterprise(HPE)は、オンプレミスの消費型サービス「HPE GreenLake」向けの管理コンソールを発表してクラウド戦略を一歩進めた。「パブリッククラウドはライバル」と公言してきた最高経営責任者(CEO)のAntonio Neri氏が、ドイツ・ミュンヘンで記者の質問に答えた。
HPEでCEOを務めるAntonio Neri氏。顧客サポートの担当者として入社し、トップまで上り詰めた。
2020年で勤続25年を迎える
AWSのハイブリッド戦略を受けて立つ
「ようこそ、ハイブリッドの世界へ」ーー、AWSのOutpostsについて聞かれたNeri氏はこう答えた。「われわれはずっとハイブリッドの世界になると言ってきたが、AWSはやっとそれを認識し“ハイブリッド”という言葉の使用を許したようだ」(AWSがパートナーに対して“ハイブリッド”や“マルチクラウド”といったキーワードの使用を禁じていたというBusiness Insiderの報道を指しての発言と思われる)
AWSがOutpostsを投入する狙いについて聞かれたNeri氏は、専用の大型トラックで顧客のデータをクラウドに搬送する「AWS Snowmobile」がうまくいかなかったからと指摘し、逆にクラウドをオンプレミスに拡張することにしたのだろう、と推測した。
また、「75%のデータがデータセンターやクラウド以外の場所で生成される」というGartnerの予測を持ち出し、HPEがエッジからクラウドまでを含めたプラットフォーム戦略を進めてきたことも強調。「データをクラウドがあるところに動かすより、クラウドをデータがあるところに動かす方が物理的に簡単でコストも低い」と主張する。Neri氏によると、実際に前者の方が後者よりも30%ほどコストが高くかかるという。
HPEはドイツ・ミュンヘンで開催の「HPE Discover More Munich」で管理コンソール「HPE GreenLake Central」と、Kubernetesベースのコンテナー管理基盤「HPE Container Platform」を発表した。これにより、なかなか運用環境を移せないアプリケーションにもクラウドの体験をもたらすことができるという。
「データとアプリがどこにあっても包括的な体験ができる。パブリッククラウドも体験の一部にしたい。現在のパブリッククラウドは思うようにコントロールできないが、われわれはそれを顧客の手に取り戻す」とNeri氏は指摘。「パブリッククラウドベンダーが欲しいのはデータだ。パブリッククラウドにデータを置くとロックインされる。まるでチェックアウトできない“ホテルカリフォルニア”だ」と痛烈に批判した。
その上でNeri氏は、「HPEではオープンでクラウドネイティブなアプローチを取る。AWSよりもベターだと信じている」と語った。
GreenLakeはチャネルパートナーにとってチャンス
HPEのハイブリッド戦略で重要な役割を果たすのがGreenLakeだ。2019会計年度第4四半期の決算発表では、GreenLakeの受注が39%増加したことを報告した。また、同四半期からサブスクリプションによる売上指標としてARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)を公表しており4億6200万ドルを計上した。「GreenLake CentralのようなソリューションはARRをさらに増加させるだろう」とNeri氏は話す。実際に、今後3年は年平均30~40%のペースで成長すると見通している。
GreenLakeがチャネルパートナーにどのような影響を与えるのかーー。この問いに対してNeri氏は、「チャネルパートナーの進化を支援する」と回答した。顧客のニーズは変化しており、そこでGreenLakeの提案は有効であると考えるからだ。「顧客にとって(オンプレミスとクラウドの)正しい組み合わせは異なるが、それを見いだす専門知識や提供経験が少ないパートナーにとってGreenLakeはチャンスだ。ディストリビューターからソリューションプロバイダーに転身できる」
自社の売り上げの70%以上がチャネル経由であることに触れながら、「顧客は自分たちのパートナーと付き合いを継続したいと思っている。パートナーは自社サービスをGreenLakeに組み合わせることができる」と続けた。さらには、「われわれのチャネルプログラムは一貫性がある。競合他社のように毎年変化していない」と、ここでも競合を批判した。HPEは2018年に6つの市場機会を“Super Six”と定義し、パートナーに提示している。
従業員エンゲージスコアは25ポイント増
Neri氏は2020年で就任3年目に入る。アズ・ア・サービスやエッジコンピューティング、クラウドプラットフォームなどの施策を進める一方で、社内文化の醸成も進めてきた。
実際、Meg Whitman氏の後を継いでCEOに就任した際、「顧客とパートナー」「イノベーション」とともに「カルチャー」を優先事項に定めて取り組んできたという。「最高のイノベーションのためには最高の人材が必要」と説明する。
従業員が仕事に必要なツールをそろえるよう配慮しているというが、「自分のやっていることにプライドを持ち、報酬だけでなく素晴らしい体験をしてもらえる」ことを目指し、さまざまなプログラムを展開しているという。中でも、ダイバーシティーとインクルージョンについては「戦略的に重要」とし、多様性のある企業は強いとの見解を示した。Neri氏自身もイタリア人の両親の下にアルゼンチンで生まれ、欧州でキャリアをスタートさせ、米国市民になったという経験を持つだけに説得力がある。
米国本社では男女ともに取得できる育児休暇を最長6カ月に延長したり、いったん休職した従業員のキャリアを支援したりと、さまざまな取り組みを行ってきたという。その結果もあり、従業員エンゲージメントスコアは、就任時から25ポイント改善したとのことだ。
最近の取り組みが、米国カリフォルニア州のパロアルトに開いた新しい本社だ。HPEの最新技術を組み込み、最高のデジタル体験を提供する“デジタルワークプレイス”を大きな特徴とし、Neri氏自身もデザインに参加したという。
「6万3000人の従業員は、会社がどこに向かっているのか、何に注力すべきかのかを理解している。これは重要だ。従業員が幸せでなければ、顧客を満足させることはできない」(同氏)
(取材協力:日本ヒューレット・パッカード)