企業セキュリティの歩き方

自然災害とサイバー攻撃--歴史で探る日本が「たたかれても強い」理由

武田一城

2019-12-18 06:00

 本連載「企業セキュリティの歩き方」では、セキュリティ業界を取り巻く現状や課題、問題点をひもときながら、サイバーセキュリティを向上させていくための視点やヒントを提示する。

 令和元年は、筆者にとって不幸続きだった。特に夏から秋にかけては身内の不幸が重なる過酷な数カ月であった。「令和元年」は、一生忘れない年になるだろうが、世間を象徴したのは200カ国近くのVIPが参加した新天皇の即位の儀式はもちろん、インパクトとしては9月と10月に相次いで関東地方に上陸した台風15号と19号がトップかもしれない。

 この2つの台風は驚くほどの被害をもたらした。筆者は、千葉県の北東部に自宅があることもあって、千葉市に上陸してその周囲を襲った台風15号では被害を受けた。車庫のシャッターやサッシ類が吹き飛び、屋根も一部はぎとられてしまった。倒木寸前になった庭木も複数あった。自宅の地域は人口密度が低く、目立つ遮蔽(しゃへい)物もなかったため、瞬間最大風速50m近い強風の威力をまざまざと体験した。

 幸いなことに人的被害はなかったことと、(金銭的にも)損害保険に入っていたおかげで結果的にそれほど痛いダメージではなかった。また、台風20号の際には千葉県自体は直接的な影響をそれほど受けなかったが、筆者の実家近くにある日本最大の流域面積を持つ利根川の下流は、上流域での観測史上最大級の降雨によって危険水位を超えた。結果的に、堤防決壊などには至らなかったが、テレビでは近所にある水門付近の濁流が映し出され、一時は避難勧告も出された。

 筆者にとって、これらの出来事は改めて災害大国に住んでいることを思い出させるのに十分だった。自然災害は、今回の台風のようにある程度予想できるものもあるが、地震や竜巻など、とても予測不可能なものまでいろいろある。客観すれば、日本は世界最大級の災害大国と言って良く、日本に住む人のほとんどは何らかの災害を経験するだろう。

 これらの災害を目の当たりにしてから筆者は、災害とは一見全く関係ないように見えるサイバー攻撃やセキュリティ対策につながる部分が幾つもあることに気が付いた。そこで今回は、「災害の脅威にさいなまれている日本人だからこそ可能」という観点でのセキュリティ対策があるのではないかという仮説を記してみたい。

災害大国の日本

 日本は、諸外国に比べて自然災害が数多く発生する。台風、大雨、洪水、土砂災害、地震、津波、火山噴火など数えれば切りがない。例えば、日本列島は島々も含めて南太平洋で発生する台風の通り道だ。しかも、最近は日本付近の海面温度が高く、かなり日本に近いエリアで最大勢力となることも少なくない。それに、日本列島はその中央部分に背骨のような形状の山地が並び、全国的にも平地が少ない。人々の多くは山に囲まれている、あるいは、山が海近くにまで迫る平地に住んでおり、険しい斜面を背負った平地では洪水や土砂災害が起こる。水は高き所から低きに流れるというのが自然の摂理なのだから、むしろ当然なのだろう。

近年に発生した大規模な自然災害
近年に発生した大規模な自然災害

 直近の自然災害を上図にまとめてみたが、2018~2019年のものだけでも、さまざま災害が発生した。これらは代表的なものに過ぎず、この他にも中小規模のものや大きな災害でも発生した地域の人口が少なくニュースにもならなかったものを含めれば、数え切れないほどの被害が起きているはずだ。

 また、日本列島には数多くの火山があり、鹿児島の桜島などのように噴火が日常的なものもある。地球の表面は「プレート」と呼ばれる幾つもの岩盤が組み合わさってできており、北米プレート、太平洋プレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレートの4つのプレートの継ぎ目が日本付近にある。このような狭い地域にプレート境界が集中するのは地球上でも数えるほどしかない。地球内部の不安定な液体のマントルの上に地殻があり、マントルの動きに合わせて地殻も日々動いており、そのひずみがプレートの境界付近に集中する。その結果、そのプレートの境界付近では何十年~何千年の周期で巨大地震が発生する。2011年の東日本震災のように、大きな揺れや津波と、それによる被害を発生させるのだ。

 しかも、津波は日本近海の地震だけではなく、太平洋の向こう側で大地震が発生しても到来することがある。こうなると、もう日本は災害の百貨店なのか総合商社と言わんばかりだ。一般財団法人「国土技術研究センター」によれば、世界に占める日本の面積は0.28%に過ぎないが、世界で発生したマグニチュード6以上の地震の20%以上が日本であり、さらに7%もの活火山が日本に存在しているという。その他にも世界の災害被害額の11.9%が日本という統計もあり、これらのデータは全て日本が自然災害と隣り合わせにいることを示している。

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