東大とIBM、量子コンピューター「Q」を日本で運用

渡邉利和

2019-12-20 11:02

 東京大学と米IBMは12月19日、「量子コンピューティングの技術革新ならびに実用化に向けたパートナーシップ構築を推進するための覚書」を締結したと発表した。IBMの量子コンピューター「IBM Q System One」を日本で運用し、その活用における広範な取り組みを推進する。

 東京大学とIBMは、他大学や公的研究機関、産業界が幅広く参加できる幅広いパートナーシップの枠組み「Japan-IBM Quantum Partnership」を設立、(1)産業界とともに進める量子アプリケーションの開発、(2)量子コンピューターシステム技術の開発、(3)量子科学の推進と教育――の3つの取り組みを進める。また、IBMが所有・運用するIBM Q System Oneを国内のIBM拠点に設置することを予定している。

東京大学量子イニシアティブ構想の概要
東京大学量子イニシアティブ構想の概要

 併せて、東京大学本郷キャンパス内に、次世代量子コンピューターにおいて使用するハードウェアを含む技術開発を行うための「世界初の量子システム技術センター」を開設する予定も発表した。ここにはIBM Q System Oneをベースとした実験/テスト用のハードウェアを「Technology Development Center」として設置する予定だ。計2台の量子コンピューターが国内で2020年中をめどに運用が開始される予定となる。なお、IBMの量子コンピューターを米国外に設置するのは、既に発表されているドイツに次いで日本が世界で2番目になる。

Japan-IBM Quantum Partnershipの概要。日本に持ち込まれる量子コンピューターのハードウェアは商用システムであるIBM Q System Oneと研究開発用機材“Technology Development Center”の2台で産業アプリケーション、ハードウェア技術開発、科学と教育の3領域で活用される。パートナーシップは東京大学がリードし、IBMが協力する形になる
Japan-IBM Quantum Partnershipの概要。日本に持ち込まれる量子コンピューターのハードウェアは商用システムであるIBM Q System Oneと研究開発用機材“Technology Development Center”の2台で産業アプリケーション、ハードウェア技術開発、科学と教育の3領域で活用される。パートナーシップは東京大学がリードし、IBMが協力する形になる

 東京大学 総長の五神真氏は、「Society 5.0」に向けた国レベルの取り組みを踏まえ、「DFFT(Data Free Flow with Trust)」といった概念を実現するために量子コンピューティングが重要な役割を担うと指摘した。東京大学がリードする「東京大学量子イニシアティブ構想」では、日本の研究機関および国外トップ機関と連携して「基礎から活用までを一気通貫にカバーする教育・研究開発体制」を「産学官All Japan」で作っていくとした。併せて同氏は、「実利用も開かれつつあるが、量子コンピューティングではまだまだ基礎研究が必要な段階だ」として、基礎研究の場を整備することが意義を強調した。

 日本IBM 代表取締役社長執行役員の山口明夫氏は、日本に量子コンピューターのハードウェアを持ち込むことになった背景として、「東京大学、日本企業、そして日本IBMの社内で量子コンピューターに携わってきた人材の研究力の高さが米国に認められた結果」だと語った。

 また東京大学 理事・副学長の藤井輝夫氏は、東京大学量子イニシアティブ構想の詳細を説明した。同氏によれば、“デジタル革命(DX)”などが進行し、知識集約型社会に向けて動き始めている今、「Society 5.0やglobalization 4.0などにつながっていく“Goodシナリオ”と、データ独占社会/デジタル専制主義といった“Badシナリオ”の両方が考えられる」とした上で、「知識集約型社会の良いシナリオを作っていかなくてはならない」とした。

 最後に、米IBM Research ディレクターのDario Gil氏が、これまでの量子コンピューターの研究開発の歴史を概観し、「量子コンピューターで商業的に実問題を解決」できる時代“Quantum advantage”(2020年代~)までの道のりとして、現在は量子コンピューティング時代に備えて世界を巻き込む“Quantum ready”の時代だと位置付けた。その上で、同社が量子コンピューターを進歩させ、商用アプリケーションを開発するための企業、スタートアップ、大学、研究機関のコミュニティーとして運営する「IBM Q Network」も紹介した。

 なお、IBM Q Networkでは慶應義塾大学が初期メンバーとして参加しており、グローバルの5つの地域拠点のうち、その1つとして慶應義塾大学量子コンピューティングセンター内に「IBM Qネットワークハブ」が2018年5月に開設された。既に活動を開始している。

 なお、日本に設置されるIBM Q System Oneは、国内ユーザーのために提供されるシステムとされ、従来のIBM Q Networkで米国内のシステムをネットワーク経由で利用していたのに比べると、ネットワーク遅延の短縮や、共用するユーザーが国内に限定されることに伴う利用時間枠の拡大などが期待されるほか、日本のハードウェア関連の研究開発力に期待されている面も大きいようだ。

記者会見に臨んだ日本IBM 執行役員の森本典繁氏、IBM Reserch DirectorのDario Gil氏、日本IBM 代表取締役社長執行役員の山口明夫氏、東京大学 総長の五神真氏、東京大学 理事・副学長の藤井輝夫氏、東京大学 大学執行役・副学長の相原博昭氏(左から)
記者会見に臨んだ日本IBM 執行役員の森本典繁氏、IBM Reserch DirectorのDario Gil氏、日本IBM 代表取締役社長執行役員の山口明夫氏、東京大学 総長の五神真氏、東京大学 理事・副学長の藤井輝夫氏、東京大学 大学執行役・副学長の相原博昭氏(左から)

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