展望2020年のIT企業

「SAP R/3」の延命策を編み出したBTO企業--業務アプリを変えずハード入れ替え

田中克己

2019-12-23 07:00

 2025年に保守サービスが終了する統合基幹業務システム(ERP)「SAP R/3」のユーザー企業は日本に2000社以上あると言われている。その多くが最新版「SAP S/4HANA」へのバージョンアップを計画しているのだろうが、移行の時期や費用などに悩んでいるユーザーは少なくないだろう。

 そんなユーザーにR/3の利用期間を延長する方法を提案するのが、PCやサーバーなどのBTO(受注生産)ビジネスを展開するファナティックだ。10年以上たって老朽化したハードウェアを同社の安価なハードウェアに入れ替えて、OSや業務アプリをそのまま使い続けることを可能にするというもの。ある部品メーカーが8台のサーバーを入れ替えるなど、実績も出てきたという。

「ハード入替サービス」に乗り出すファナティック

 ファナティックが「ハード入替サービス」に乗り出したのは、約10年前になる。代表取締役の内義弘氏は「『何でも作れる』と言ったら、あるユーザーから基幹系で稼働するコンピューターを作ってほしいと頼まれた」と振り返る。それまでの依頼は、高速計算処理など用途が特化したもので、「『他社にできなかったものを当社に作って』と声がかかることが多かった」

 ハードウェアの入れ替えもその1つで、ある部品メーカーから「S/4HANAが稼働するまでの数年間、R/3を維持したい」という相談を受けた。R/3が稼働するハードウェアの経年劣化による故障リスクの高まりが課題になっていたという。しかし、ハードウェア保守が終わっても、使い慣れた古いOSやソフトウェアを使い続けたい。最新OSにバージョンアップしたり、業務アプリなどソフトウェアを新しいものにしたりする必要はない。ハード入替サービスは、そんなユーザーの声に応えるものだという。

ハード入替サービスの概要 ハード入替サービスの概要
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 常務取締役の斉藤悦彦氏は、「リース切れや保守切れなどで、5年ごとにハードウェアをリプレースすることに疑問を持つユーザーは少なくないだろう」と見ている。これまで、富士通の「GLOVIA」やオービックの「OBIC7」、内田洋行の「スーパーカクテル」などのOSやソフトウェアの環境を変えずに、長年使ったハードウェアを500台以上、入れ替えた実績があるという。R/3もその流れにある。移行費用は250万円からのようだ(移行データ量など環境によって異なる。サーバーは1台当たり約50万円から)。

 デジタル化を推進したいユーザーには、ハードウェアの入れ替えで浮いた費用や時間をデジタル投資に振り向けられると提案する。斉藤氏は「あるユーザーから一番良い選択と言われた」と喜ぶ。S/4HANAへすぐに移行できないユーザーの場合、その間、R/3を安全に運用し、例えば5年後に移行する。そんな延命をポジティブにとらえるユーザーに提案するという。

ハードの受注生産を展開する社内ベンチャーとしてスタート

 ハードウェアの受注生産サービスを展開するファナティックの母体は1993年12月、大阪に本社を構える受託ソフト開発会社の社内ベンチャーとしてスタートしたことに始まる。当時、システムエンジニア(SE)だった内氏がまずDOS/Vマシンの輸入販売を始めて、大阪・日本橋や東京・秋葉原に出店する。PCの販売ビジネスは順調に拡大したが、「顧客は競合店の価格を比較して購入するので、当店の特徴や価値をなかなか理解してくれなかった」(内氏)という。そこで、ターゲットを個人から法人にシフトした。

 実は、店舗に企業のIT部門担当者も来店していた。彼らは、自分でPCを組み立てたりもするので、より高い性能の製品を安く手に入れられることを知っている。大手メーカー品にこだわらない人もいる。そんな人たちがファナティックのPCやサーバーを「人生を賭けて」(内氏)買ってくれる。富士通やIBMなど大手メーカー製品なら、社内の理解を得やすいし、トラブルが起きても「大手メーカーの製品なのでしょうがない」となることもあるだろう。だが、誰も知らないような企業の製品はそうはいかない。問題が起きれば、担当者は責任を問われるかもしれない。

 こんな事故もあった。ある大手製造企業の子会社がファナティック製品を採用した。「提案したHDDのミラーリングなどを評価してくれた」(内氏)という。ところが不具合が起きた。大手メーカーのユーザーだった同社担当者の立場を危うくした。叱られた内氏は「品質問題に直面する都度、私は分かっていない」と反省したという。勉強しながら分かったのは、ユーザーの信頼に応えることの重要性だ。

 ある大手製造業に販売した約100台のPCがある日、次々にダウンし、ファナティックは営業を全面停止して2週間にわたり24時間2交代で復旧サポートに当たった。障害の原因はハードウェアではなく環境にあったという。オフィス用のPCを製造現場に設置・稼働させたことだ。それを契機に同社は産業用PCの製造を始めた。

 2006年6月には社内ベンチャーから事業会社になり、さらに親会社との資本関係もなくなったファナティックは今、ソフトサービスに乗り出すことを考えている。手始めに2019年春、ベトナムに開発拠点となる現地法人を設立し、社内システムの開発から始めた。ハード入替サービスで延命したシステムも、いずれ全面的に刷新する時期が来るため、その要求に応えるためだ。ハードウェアの受注生産サービスという強みを生かした、どんなソフトサービスを提供するのだろう。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。

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