第4回:「カスタマーサクセス」で考えるITの使い方--編集部新春放談 - (page 2)

阿久津良和

2020-01-14 07:00

ZD國谷:カスタマーサクセスは、日本語に置き換えると「顧客の成功」ともいわれます。とても抽象的ですが、この言葉の裏側には壮大な日本の産業構造の変化につながるものがあるのではないかと思います。

 これまではモノ売りの時代といわれ、顧客がモノを購入あるいは所有することでいかに満足してもらえるかが企業にとって重要でした。満足度としては分かりやすいですが、本来モノは何かの目的を達成するために存在するのであって、実はモノが主役ではなく、継続的に顧客の目的を実現する手段や支援が重要になっていくわけです。

 これをIT的に表現すれば「As A Service」であり、それ故にSaaSベンダーは「カスタマーサクセス」という言葉を用いるのかもしれません。カスタマーサクセスのための手段を提供する企業は、本当の意味での顧客満足とは何かを熟考することが必要になりそうです。

 藤代さんが言うように、単純に手段としてのモノを提供するのではなく、手段を通じてその利用者が目的を達成してどのように満足感を得ていくのか。これを別の言葉に置き換えたのが、「カスタマーサクセスストーリー」もしくは「カスタマージャーニー」でしょう。

TR田中:つまるところカスタマーサクセスは、「ドリルがほしいのではなく、釘を打つための穴を開けたい」ということなんだと思います。

 SaaSは本当にスイッチしやすく、「昨日までSalesforce.comを使っていたが、明日からMicrosoft Dynamics 365に移行」するのも容易。だからこそSaaSベンダーも考えており、データを渡したがらない傾向があります。

 10年ほど前、ユーザー企業のデータを引き出しにくくしている某大手SaaSから他のソリューションに移行するためのコンサルティングビジネスが米国にはあると聞いたことがあります。

 2016年に掲載したPaaS座談会では取り上げなかったが、その頃からSalesforce.comはカスタマーサクセスというキーワードを使っていました。業務でITを使う方にとって重要なキーワードであり、SaaSベンダーとしては顧客離れを避けるためには、多様な利用方法を提案し、カスタマーサクセスの意味を再考する必要があると思っています。

ZD國谷:カスタマーサクセスと顧客満足度は直結しますが、そのための方法は無限にあります。とはいえ、ビジネスの観点ではターゲットを絞り込まなければならず、日本マイクロソフトは、業種別のリファレンスアーキテクチャーというアプローチで、各業界の企業顧客を成功に導いていこうとする戦略です。

 例えば、運輸の業界ならMaaS(Mobility as a service)をトヨタ自動車が主導し、自動車をモノではなく移動手段として快適に移動したいという顧客の目的を支援するサービスにシフトしようとしています。そして、元々はITベンダーにとって「ユーザー企業」だった、非ITの企業がITベンダーの様相を見せ始めてきました。その動きが突出して見られるはMaaSですが、それがスマートシティのような形でさまざまな業界に波及しようとしています。このような新しいエコシステムによる社会や産業の構造の変化は面白い動きになりそうです。

TR藤代:提供側のバランスが問われているということでしょうね。運輸以外でも、例えば介護や流通などさまざま存在する業種ごとにカスタマーサクセスを提供しようとすると、無限に作ることが可能です。詰まるところ単独企業向けのサービスがベストなわけですが、その分高コストになってしまいます。

 SaaSはオンプレミスほど単価が高くありません。利用者の満足と儲けをいかに両立するか。このバランスを捉えたサービスでないと今後は厳しいでしょう。協業が上手で「何にでもつながる」SaaSも増えていますが、本質を捉えていないと厳しいでしょうね。

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