中国武漢市で発生し、世界的に感染を広げる新型コロナウイルスに対して、2020年1月30日、世界保健機関(WHO)は「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言しました。緊急事態宣言は、アフリカ中部でエボラ出血熱の感染が拡大した2019年7月以来6回目です。そして2月3日現在、中国での感染者は1万7000人を突破し死者が361人に上がることが発表されました。一方、日本国内で確認されている新型コロナウイルス感染者は無症状の人を含み20人。厚生労働省は「我が国において、現在、流行が認められている状況ではありません」とし、風邪やインフルエンザ対策と同様の感染症対策を求めています。
(出典:Anthony Kwan/Getty Images)
世界中にまん延する「怪しげな情報」
新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、パニックの波も世界中に広がりつつあります。街ではマスクが入手困難となり、日本の一部には反中感情を強める人もいるようです。海外では、中国人だけでなくアジア系人種全体に対する人種差別も発生し社会問題となっています。
そして、新型コロナウイルスと同様に広まっているのが「インターネット上にはびこるデマ・フェイクニュース」です。例えば、以下のようなデマ・フェイクニュースがSNSを中心に拡散しました。
- 東京オリンピック・パラリンピックが中止される
※大会組織委員会・東京都知事らが完全否定 - 発熱症状のある武漢からの旅行者が関西国際空港の検疫検査を振り切って逃亡
※関西国際空港がウェブサイトで否定 - 生理食塩水/酒/紅茶/緑茶/ニンニク/唐辛子/アロマが感染予防に効果がある
※いずれも医学的根拠がない。厚生労働省は「手洗い」「消毒」「(拡散防止に)マスク」を推奨 - 陰謀論(新型コロナウイルスは意図的に作られたもの・生物兵器など)
※いずれも信ぴょう性に乏しい
上述したものはほんの一部であり、今現在も多くのデマ・フェイクニュースがSNS上に流れ続けています。
デマ・フェイクニュースはなぜ広まる?
実は、今回のように感染症発生でデマ・フェイクニュースが拡散する事態は珍しいものではありません。大地震や台風、感染症やテロの発生直後のように「人々が強い不安を感じる状況」においては、デマ・フェイクニュースが広まりやすいのです。
それではなぜ、老若男女問わず、人々は不正確な情報を信じ(にだまされ)、周りに広めてしまうのでしょうか?
諸説あると思いますが、「倫理観・正義感」は要因に含まれるでしょう。すなわち、「この情報を広めれば,世のため人のためになる」「周りの人たちにもこの有用な情報を知らせたい」と考え、急いでシェア・リツイートしてしまう可能性があると思われます。
マスメディアやSNSプラットフォーマーによるデマ対策
デマ・フェイクニュースのまん延を止めようと、マスメディア各社やSNSプラットフォーマーも対策に乗り出しています。
- Twitter
新型コロナウイルスについて情報検索した際、信頼できる情報を最初に表示 - Facebook/Instagram
新型コロナウイルスに関して誤った情報や有害なコンテンツの制限 - NHK
局内の専門チーム「SoLT」が事実確認(ファクトチェック)を実施
その他のメディア各社、政府官公庁、地方自治体なども、デマ・フェイクニュースを随時否定し、注意喚起を行っています。
しかし、それでもデマ・フェイクニュースが消えないのが現状です。メディアやSNSプラットフォーマーだけでなく、わたしたち個人も「デマ・フェイクニュースにだまされない」「デマ・フェイクニュースを広めない」ためのリテラシーを持つことが必要不可欠なのです。
デマ・フェイクニュースにだまされない
「デマ・フェイクニュースにだまされない」「デマ・フェイクニュースを広めない」ためには、以下を徹底するのがお勧めです。
- 公的機関による一次情報かどうか確かめる
- 確実に「正しい」と裏が取れた情報しか広めない
※一次情報:(人づてではなく)本人が自ら体験・調査して得た情報
新型コロナウイルス関連の情報でいえば、以下のようなウェブサイトで正確な情報を入手するのがよいでしょう。
もちろん、国や公的機関、自治体だけでなく、企業や団体、専門家などから発信されている情報の中にも正確で有用なものは多く存在します。
ただし、「有名人の投稿であっても、信頼している親友からのリツイートであっても、絶対に鵜呑みにしない。そして、国や公的機関などのウェブサイトで正確な情報かどうか確かめる」ことが重要です。
皆さんと皆さんの周りの人々がデマ・フェイクニュースにだまされないためにも、ぜひこれを習慣にしてみてください。
デマ・フェイクニュースを広めない
デマ・フェイクニュースと聞くと、つい「被害者(=だまされた人)」になることを心配しがちですが、みなさんが「加害者」になる危険性もあることを知っておきましょう。デマ・フェイクニュースを拡散することは、悪意の有無にかかわらず、罪に問われる可能性があるのです。例えば、以下の事例は記憶に新しいのではないでしょうか。
- 2016年4⽉ 熊本地震の直後に動物園から「ライオンが放たれた」というデマがSNSで拡散された。発信者は偽計業務妨害で逮捕
- 2019年8月 あおり運転殴打事件で犯人の車に同乗していたとのデマを拡散した複数のSNSユーザーに対し、デマ被害者の女性が名誉毀損として損害賠償請求
デマ・フェイクニュースを自ら投稿するのはもちろんですが、第三者が投稿したデマ・フェイクニュースを「シェア」「リツイート」することも「投稿に賛同する表現行為」とみなされた判例もあります。訴えられてから「自分もだまされていた被害者だ」「よかれと思って拡散した、悪意はなかった」と弁解しても、後の祭りです。
デマ・フェイクニュースを広めないためには「公的機関による一次情報であるか確認し、確実に正しいと確信できた情報しか広めない」ことです。これに尽きると思います。
まとめ
SNSで「誰かに教えたい!」と心動かされる情報に出合っても、まずは一呼吸置いて「これは本当に信用してよい情報なのか?」と疑いの目を向けましょう。
繰り返しますが、「公的機関による一次情報かどうか確かめる」「確実に『正しい』と裏が取れた情報しか広めない」ことが大切です。
新型コロナウイルスを「正しく怖がる」ためにも、SNSを安全に活用するためにも、ぜひ参考にしていただけたら幸いです。
- 後藤真理恵(ごとう・まりえ)
- 東京大学 文学部卒 ・中学高校教諭第一免許状(国語)取得。日本オラクルにて、技術者向け研修の開発から実施、講師育成、技術者向け資格試験の問題開発などを担当。その後はマーケティング、パートナービジネス部門などを歴任。2013年にコムニコへ入社し、数多くの企業のSNSマーケティングを支援するチームをマネージャーとして率いる。2016年11月、SNSエキスパート協会代表理事に就任。SNSマーケティングの正しい知識を持つ人材育成に向けた、各種講演・執筆・メディア出演など多方面で活動している。
・ZDNetでの連載バックナンバー:
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