東芝は2月3日、データを価値ある形に変え、実社会に還元していく新会社「東芝データ」を設立したことを発表した。代表取締役CEOには、2018年にシーメンスから東芝に移り、同社のデジタルトランスフォーメーションを牽引してきた島田太郎氏(東芝 執行役常務)が就任。新会社設立発表会では、事業第1弾となる「スマートレシート」のデモンストレーションも披露された。
新会社設立を発表する東芝データ代表取締役CEOの島田太郎氏
「共創エコシステム」形成を呼びかけ
東芝データは、東芝がかねてより提唱してきた「CPS(Cyber Physical Systems)」を体現した新会社だ。東芝の100%子会社で従業員は現在22名。東芝の強みである、各種社会インフラ設備から取得できるフィジカルな(実社会における)データは、膨大にあるが埋もれたまま。これをユーザー個人の同意または匿名化を経て、東芝データの「データ流通基盤」で管理し、利用事業者には業務に役立つように加工されたデータとして提供。生活者である個人にはクーポンなどの付加価値として提供する。
「過去10年を振り返ると、PCやスマホからデータを取得し活用することで、巨大な企業価値を創出する会社が、世界で多数発生した。技術的に非常に難易度の高いフィジカルな製品を提供している企業よりも、大きな株式市場価値を創出している。我々からすると、不公平な世界のように感じられる」(島田氏)。
「サイバーtoサイバーだけでは、データが足りない。さらなる利便性向上のため、フィジカルなものからもデータを得ようという動きが出てきた」と指摘する島田氏
島田氏は、一部の企業がデータを独占する現況に対してこのように言及しつつ、すでに世の中に存在しているモノから集めたフィジカルなデータの活用が今後急速に加速することを示唆。GAFAやBATとは異なる、新たな共創エコシステムの形成を呼びかけた。B2B2Cにおける最終顧客との接点を持たないメーカーのマーケティング部門などにとっても、的確な製品開発、広告宣伝費の有効活用など、大きなポテンシャルを秘めているだろう。
第1弾は「スマートレシート」から
事業の第1弾となるのが、「スマートレシート」を核とする購買データ事業だ。東芝のPOSシステムは、世界シェア1位。「データ流通基盤」で扱うフィジカルなデータの取得経路として、「東芝のハードウェアを使うことは絶対条件ではない」としながらも、従来の得意領域を接地面として事業を開始したことを説明。
スマートレシートは、すでに788店舗で稼働中だ。現在の会員数は約19万人。2019年11月には渋谷PARCO公式アプリとの連携を開始。今後は、情報キュレーションサービスなどを手がけるGunosy(グノシー)と連携して規模拡大を図る。並行して、未病への貢献を目指す健康データ事業も進めており、エムスリーグループのCUC(シーユーシー)と協働事業に向けた協議を開始した。
「スマートレシートは、店舗数拡大が一番の課題。店舗展開を加速させるため、いま新会社設立を発表した。国内の小売業販売総額145兆円のうち45兆円を占める大規模な店舗を中心に、2020年中に10万店舗まで稼働を広げたい。具体的には、百貨店、コンビニ、家電量販店、ドラッグストアなどだ」(東芝データCEO島田太郎氏)。
デモンストレーションの様子。実際に店舗で使われるレジの機器と、スマートレシートセンターをリアルタイムかつ本番環境で接続して行われた。左側にレジ機器を設置、大画面には顧客側のスマホ画面を表示
店舗でレジを打つと、1〜2秒後にはユーザーのスマホにレシートが届く。購買履歴を総額でしかデータ取得できないデジタル決済とは異なり、誰が何を購入したか明細レベルでの詳細データを取得できる
購買履歴にもとづいてクーポンが配布されるため、利用率は高い。沖縄での実証事例では、クーポン利用率は56.7%で、紙の約10倍、SNS系クーポンの約5倍だった。バーコードが付いており、クーポン利用履歴のデータ取得も可能となる
サステナブルな社会への提言
「データ流通基盤」を介して様々なパートナー各社のデータをつなげることで、新たな付加価値をもたらす共創エコシステム形成を目指す東芝データだが、新たなビジネスに重要なパートナーシップや、GAFAやBATのように1社で巨大な経済圏を形成した企業との差別化に、苦慮する側面も伺える。
すでに事業を開始しているスマートレシートについても、売上、市場規模、収益モデルは、全て非公表だった。現段階でスマートレシートは、サービス利用事業者に課金するビジネスモデルだが、新会社設立を機にこれを見直すという。島田氏は「収益モデルを転換することで、店舗展開を早める狙いがある」としつつも、新たな収益源への明言は避けた。
同社が考える突破口はSDGsだ。データをシェアできる基盤は、サステナブルな社会を実現するための時代の要請であることを説き、新たな未来への始動を訴えた。海外展開も「一気にやっていく」構えだ。約款には投資業務も入れているという。