海外コメンタリー

量子コンピューティングの未来はどうなる?--商用化目指すさまざまな取り組み

Daphne Leprince-Ringuet (Special to ZDNET.com) 翻訳校正: 石橋啓一郎

2020-02-12 06:30

 量子技術の開発を加速することを目指した、英国の10年間の国家プロジェクトは、2019年に折り返しを迎えた。これまで、このプロジェクトには、政府や業界から10億ポンド(約1500億円)以上の資金が投じられている。その現状と言えば、量子コンピューティングには多くの可能性があるが、実際にどう使うかというのはまだはっきりしていない。

 米エネルギー省のClaire Cramer氏は、ロンドンで開催された会議で、「量子コンピューティングには多くことが期待されているが、まだ革新的なソリューションは存在しない。現実には、このテクノロジーがどのような影響を及ぼすのか、われわれにはまだ分からない」と述べた。

 もちろん、この5年間が失敗だったわけではない。むしろまったくの逆だ。今では、ハードウェアが開発されたことで、世界中の研究者が実際に量子コンピューティング技術を試すことができるようになった。つまり、量子コンピューターは単なる想像上の存在ではなくなったのだ。デバイスが存在していること自体が重要な成果だと言える。

 実際、1月に開催された「Consumer Electronics Show(CES)」では、IBMが20量子ビットの量子コンピューター「IBM Q System One」について、研究者の間でますます気運が高まっていることをアピールした。

 Q System Oneは、研究チームが未来の問題を解決するために量子コンピューターをどう活用できるかを検討するためのプロトタイプとなっている。

 どのようなことが問題なのかを見出すことが、量子コンピューティングの次の課題になるのかもしれない。英国政府の研究助成機関である工学・物理科学研究会議の副ディレクターLiam Blackwell氏は、「この分野にはすでに多くの資金が投じられており、今後は、英国にメリットをもたらす実際の成果を上げていく必要がある。今の本当の課題は、成果を上げなければならないということだ」と述べている。

 研究チームが飛び込もうとしているのは、まったくの未知の領域ではない。すでに、量子暗号を使ったセキュリティの強化などの、量子技術を応用できる可能性のある問題の研究が進められている。

 また、薬学や創薬の分野でも、大きな恩恵を受けられる可能性がある。例えば、神経科学分野でリードする企業Biogenは、アルツハイマー病や多発性硬化症などの疾患に対処するために、量子コンピューティング研究に取り組む1QBitと提携関係を結んでいる。

 しかしCramer氏に言わせれば、これらはまだ表面的な応用事例だという。「例えば、レーザー技術について考えてみてほしい」と同氏は言う。「70年前は、レーザーの存在さえ知られていなかったが、今ではレーザーポインターに違和感を感じる人はいない」

 同じことが量子コンピューティングにも言える。まだどんな革新的な用途が登場するかは、まだ分からない。私たちは、発見の文化を維持する必要がある」

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