テクノロジーは、2020年に企業にどんな影響を与えるのだろうか。その全体像を正確に見通すことは難しいが、2020年にテクノロジーが人の働き方に与える影響の一端を明らかにしていくことで、新たに登場しつつあるテクノロジーが次の10年間に企業に与える変化の方向性をうかがい知ることができるかもしれない。
筆者は、米国の大手人事管理アウトソーシング会社であるADPのコーポレートバイスプレジデントDon Weinstein氏に、今後6~12カ月で、人の働き方が技術によってどう変わるかということについて話を聞いた。同氏は、パーソナライゼーション、人工知能(AI)/機械学習、予測分析、ローコード開発などのさまざまな技術について言及しながら、自身の立場からみえている技術と働き方の関係に関する主なトレンドについて語った。
同氏の意見は、人間の働き方の変化を新たな視点から分析したものになっている。
チーム中心のアプローチが仕事の進め方に革命を起こす
Weinstein氏はまず、テクノロジーの進歩によって、チームやフラットな組織構造の重要性がさらに高まると語った。
「未来の働き方では、基準に基づいて作られたチームの可能性を解き放つ、フラットな組織構造が重要になる」と同氏は言う。「企業は、人材に対するニーズを満たすために、自社の従業員に不足している部分を、専門性が高いギグワーカー(オンラインで単発の仕事を受注する個人の働き手)や、元従業員や復職した従業員、柔軟に仕事をサポートできる退職者などで補うことを考えるようになる」
この予想を聞いて筆者が考えたのは、ハリウッドのことだ。映画の制作は極めて複雑なプロセスであり、ギグワーカーのチームが力を合わせて、短い間に極めて困難な仕事をこなす必要がある。関わる人間は、俳優や製作者から始まり、セットのデザイナーや制作コーディネーターまで、すべてがギグワーカーだ。
専門性が最優先されるハリウッドとは事情が異なるだろうが、Weinstein氏は、職務範囲の境界線を緩やかにすることで、創造的に問題解決を行えるようにする方向に進むと考えている。
「企業は、部門間の壁を壊して潜在的な可能性を解放し、エンゲージメントとパフォーマンスを基礎とした人のつながりの文化を生み出すことを求められるようになる。 このことは、異なる世代の働き手がいる企業では一層重要になる」
パーソナライゼーションが最重要課題になる
同時に、テクノロジーは従業員に新たなパーソナライゼーションの可能性をもたらす。
「雇用主と従業員の両方が、従来のような単一の巨大なソフトウェアではなく、一般消費者が利用しているレベルの、アプリ中心の人材管理システムを求めている。新たな技術や人工知能(AI)、機械学習が交わることによって、従業員体験は進化していく」(Weinstein氏)
それによって生じる結果の1つは、一見ささいなことのように見えるが、実際には非常に影響が大きいものだ。従業員は、給料を受け取る方法や時期を自由に決められるようになるが、これによって2週間ごと、1カ月ごとの定期的な給与によるプレッシャーが軽減される可能性がある。
Weinstein氏は、「賃金の支払いに関するパーソナライゼーションは新たな次元に到達し、働き手は好きなときに好きな形で賃金を受け取れるようになる」と述べている。