下町工場にも広がるIoTとクラウド--IoTビジネス共創ラボが活動報告

阿久津良和

2020-02-07 06:00

 IoTビジネス共創ラボは2月6日、日本マイクロソフトが同日開催した年次イベント「IoT in Action」に合わせて、1年間の活動を紹介する記者説明会を開催した。地方や中小企業でのIoT(モノのインターネット)の活用状況を報告している。

 同ラボは、マイクロソフトを含む国内外の企業が参画する形で、2016年2月に発足した。現在は8つのワーキングループと8地域で地方活動拠点を設け、一般会員は656社/924人、Compassメンバー3821人、Facebookメンバー1833人(1月15日時点)にまで拡大している。幹事社を務める東京エレクトロン デバイスでクラウドIoTカンパニー エンベデッドソリューション部の福田良平氏は、4年間の手応えとして、「特に製造業はIoT化に非積極的だが、代替わりした若い世代の社長はテクノロジーを活用する姿勢を見せてくれる」と述べ、国内企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)化は遅々たる歩みだが、確実に進んでいるとした。

東京エレクトロン デバイス クラウドIoTカンパニー エンベデッドソリューション部の福田良平氏
東京エレクトロン デバイス クラウドIoTカンパニー エンベデッドソリューション部の福田良平氏

 この日にIoTビジネス共創ラボが紹介した事例は、ふくしまIoTビジネス共創ラボの日本クリーンシステム、かわさきIoTビジネス共創ラボの大矢製作所、石川・金沢IoTビジネス共創ラボの冨木医療機器、中部IoTビジネス共創ラボの名古屋大学の4つだ。

 ゴミ貯留排出機「ゴミック」の開発・製造・販売を担う日本クリーンシステムは、遠隔地に配置した機器の状態が分からず、現地へ保守担当者を派遣するコストを強いられてきた。あくまでも機器の利用者は詳しいわけではないため、機器のエラー状態を正確に伝えられなかったという。さらに、ゴミの排出重量を示す機能を備えていないため、請求内容の妥当性を示せないといった課題を抱えていた。

 そこで福島コンピューターシステムは、被監視拠点に設置したゴミックとプログラマブルロジックコントローラー(PLC)装置)をRS-232Cで、PLCとRaspberry PiをSLMP over Ethernetで接続、モバイルルーターを経由して、Microsoft Azureにデータをアップロードするゴミックの遠隔監視システムを開発した。機器データやゴミ排出の重量をリアルタイムに確認することで、保守コストの削減やエラー発生時の対応時間の短縮など実現する。

 IoTビジネス共創ラボの福田氏は、この取り組みについて、「病院や大規模モール、海外の5つ星ホテルでも採用されるようになった。ゴミックが売れれば福島の地域活性化や海外展開にもつながる」と解説する。

 大矢製作所は、住宅街にある工場で旋盤加工や金属同士をすり合わせて圧接する摩擦圧接品の製造を行う小規模な企業だが、下町工場の類に漏れず、勘や経験に頼る職人気質で属人化問題を抱えていた。生産実績管理や品質保証データを収集するなどの取り組みはしていなかったという。例えば、高圧ホースの口金具などに用いられる異種金属材の結合は発熱量が素材によって異なるということがあるが、この作業は勘に頼ることになってしまう。

 この課題への対応を求められた東京エンヂジニアリングと東京エレクトロン デバイスは、摩擦圧接加工機がネットワークに対応していないことから、まずPLCを追加すると同時に、放射温度計とFTPクライアントを追加して、ミリ秒単位で取得したデータをMicrosoft Azureにアップロードする仕組みを構築した。各種データを可視化することにより、生産データ履歴の管理はもちろん、摩擦圧接加工機の回転数や温度、各種圧力の状況をグラフ化し、職人の勘に頼らない製造工程を実現した。今後は、量産品製造における履歴管理の確保や、新製品の加工条件設定の最適化を目指す。

 冨木医療機器は、北陸地域で医療機器・医薬品配送管理を担う。保管倉庫から製品を配送する営業車、そして届け先の病院や薬局までの追跡可能性に課題を感じてしたという。出荷~納品の品質管理や顧客の信頼性向上を目指し、北陸通信ネットワークと金沢エンジニアリングシステムが、京セラ製のGPSマルチユニットを運搬に用いるクーラーボックスに取り付け、温度や配送経路をデータ化した。

 このソリューションは当初、他社のクラウド環境で運用していたが、当時の運用費は1台当たり月額1000円で、年間250台分では約300万円のコストが発生していたという。そこでMicrosoft Azureへシステムを移行した場合、年間コストが60万円低下し、運用費も80%も軽減された。

 さらに、消費電力の可視化を目的として、ナレッジコミュニケーションと共同で全ての部屋の電力量を測定するソリューションも導入。電力量の推移や消費電力量ランキングをグラフで示し、フロアーごとの消費電力量をバブルチャートで表示する。また、室内や室外機など用途によって異なる電力使用量などを多角的かつ可視化することで、電力需要や寄与度の特定を可能にした。

 このように浸透しつつあるIoTソリューションだが、一方、概念実証(PoC)で頓挫するケースも少なくないという。その理由として福田氏は、「設計側が『取りあえずやってみろ!』という形で始まっているからではないか。設計や(データの)取得対象、分析内容などを明確にしたビジョンがないと止まってしまう」と苦言を呈した。また、同ラボの地方版が東日本地域に集中しているといい、「西日本の企業から数件のお声がけをいただいている」(福田氏)と、近々に新たな展開を発表できる見通しであるようだ。同氏は、日本全体が抱える多様な課題を踏まえつつ、「地方版のIoTビジネス共創ラボの活動を拡大し、日本社会への社会貢献をIoT・AI(人工知能)を中心に進めていく」とも語った。

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