「DXでなくてはならない存在に」--SAPジャパン鈴木次期社長が表明

國谷武史 (編集部)

2020-02-20 06:00

 4月1日付でSAPジャパンの代表取締役社長に就任する常務執行役員 インダストリー事業担当の鈴木洋史氏と現社長の福田譲氏は2月19日、そろって記者会見を開き、新たな経営方針などを説明した。鈴木氏は、「日本企業のデジタル変革(DX)においてなくてはならない存在になりたい」と抱負を語った。

4月1日付でSAPジャパンの代表取締役社長に就任する常務執行役員 インダストリー事業担当の鈴木洋史氏
4月1日付でSAPジャパンの代表取締役社長に就任する常務執行役員 インダストリー事業担当の鈴木洋史氏

 鈴木氏は、JDAソフトウェア・ジャパン代表取締役社長や日本IBM 理事などの要職を歴任し、2015年1月にバイスプレジデント コンシューマー産業統括本部長としてSAPジャパンに入社した。同社では、非製造業でのERP(統合基幹業務システム)の導入促進やSaaS事業の拡大などをけん引してきた。

 同氏は、「入社した2015年はちょうどS/4 HANAの出荷も始まり、次世代のERPとグローバルのベストプラクティスを通じて日本企業の革新を進めることを目標に取り組んできた。2018年から全業種の大企業のお客さまを担当するようになり、クラウドでのERP利用も広がり、SAPのマネージドサービスを利用するケースやSaaSも利用が広がっている」と振り返り、福田氏と“二人三脚”でSAPジャパンの成長に尽力してきたとした。

 福田氏が就任した2014年から5年間で、SAPジャパンの事業規模は1.5倍に拡大したといい、2019年の総売上はグローバルの前年比9%増を上回る同15%増を達成したという。顧客企業も従来は製造業が中心だったが、現在は非製造業との割合がほぼ半数ずつになった。オンプレミスのERPからS/4 HANAに移行(検討中を含む)する顧客は8割以上の状況だという。

 鈴木氏は、「DXにおいてなくてはならない存在」という抱負の先に、「その実践を通じて日本の『未来』を現実にする」というフレーズも加えた。これらが同社設立40周年を迎える2032年までの経営方針の基本になるようだ。同氏は、「顧客第一」「共創」「1つのチーム」をスローガンに掲げ、5つの重点エリアに注力すると表明した。

5つの重点エリア
5つの重点エリア

 重点エリアの1つ目は「ナショナルアジェンダ」で、日本が抱えるさまざまな社会課題の解決に取り組む。2019年11月には福島県会津若松市に「SAPイノベーションフィールド福島」を開設し、スマートシティー化を通じた地域創生に乗り出したほか、大分県とは自然災害などの防災・減災を目指すデータ基盤「EDISON」の活用を進める。また2月には、NTTドコモと共同で建設業のビジネスとデータ活用の変革を推進するクラウドERP「ランドログERP(仮称)」の開発も明らかにした。

 2つ目は「デジタルエコシステム」で、ここでは既に東京・大手町に「SAP Experience Center」を開設するなど、異業種との共創による新規ビジネスの開発やスタートアップ支援プログラムなど広範な施策を展開している。3つ目は「日本型インダストリー4.0」で、日本特有の要件をグローバルの製品に取り組むなど、日本市場に即した製造業などの変革を支援していく。4つ目は「クラウド」で、HANAをはじめとする次世代ERPやSaaSビジネスの拡大を引き続き推進するとした。

 5つ目には、同社にとってERP、クラウドに続く全く新しいビジネスという「エクスペリエンスマネジメント」を掲げる。顧客や従業員、取引先、ブランドなどビジネスのステークホルダー(利害関係)と新しい体験や価値を通じてエンゲージメント(関係性)を深めることにより、収益や競争力の拡大につなげるというものだが、ここでは2018年に買収したQualtricsなどが中核になるとした。「例えば、購買履歴だけではなく、なぜそれが購入されたのか、データ分析からインサイトを獲得し、より多くの顧客に共感される取り組みを実現する。エクスペリエンスマネジメントはブランド、製品、従業員など多岐にわたる」(鈴木氏)

 鈴木氏は、これら重点エリアについて「製品やサービスの導入・販売にとどまらず、稼働した後のサクセスジャーニー(ITをビジネスの成功につなげていく道のり)にフォーカスしていく」とも述べた。既に約50人体制での「カスタマーエクスペリエンス部門」を組成して顧客企業の支援に着手しており、今後この体制を拡充していくという。

 また2月5日には、これまで2025年を期限としていた「SAP Business Suite 7」のコアアプリケーションのサポートを2027年まで2年間延長し、有償でさらに2030年まで延長できることも発表した。これについて鈴木氏は、「日本を含む世界中の顧客に要望に応えたもの。新しいビジネスに変革していくためにも、顧客にはS/4 HANAの価値を最大限に感じていただきたい。総じて好意的なご意見をいただいている。(HANAへの移行は)単に技術的なアップデートではなく、将来のビジネスを考える機会になる」と述べた。

 現職の福田氏は3月31日付で退任し、4月1日付で富士通の執行役員常務 CIO(最高情報責任者)兼CDXO(最高デジタルトランスフォーメーション責任者)補佐に就任する。社長在任期間は約5年8カ月。SAPジャパンには1997年に新卒入社し、23年間の在籍となる。

3月31日付で退任する現職の福田譲氏
3月31日付で退任する現職の福田譲氏

 同氏は、「就任以来、日本で必要とされているサービスを着実にデリバリーすることを大事にしてきた。SAPジャパンは、実はとても日本的な企業だが、日本のお客さまはグローバル企業としてのSAPに期待している。SAPジャパンをグローバル化していくと同時に、日本に求められるローカル化にも取り組んできた。お客さまの支援に取り組み、今ではお客さまから自然に『変革』という言葉が語られるようになってきた。約5年間で目標を達成あるいは進展できたのではないかと思う」と振り返った。

 富士通への転職については明言を避けたが、「個人としての判断になるが、両社の経営陣からも支援をいただき、安心して仲間に託すことができる」と述べ、鈴木氏へのバトンタッチについても「当然ながら取締役会での検討を踏まえた指名になるが、(鈴木氏の任命は)個人的には一番うれしい結果」と語った。

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