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“人の評価”がもたらすエクスペリエンスへの影響度

綾塚祐二

2020-02-28 07:00

 年明けから春先に掛けては入学試験の季節であり、その結果に関して悲喜こもごものドラマが垣間見られる。試験に限らず、他人を数値で評価して、成績を付けなければならない場面は多くある。会社のような組織であれば、給与や賞与などを決めるために人事考課を行うところがほとんどだろう。

 目的によって評価方法はさまざまであり、どういう観点で行い、何を重視すべきかも異なる。試験・テストなどの特定の項目による評価と、日常業務などを幅広く見る評価とでは、同じ「評価」でも全く様相が違う。会社組織の人事考課に限っても考え方はいろいろだろう。今回は評価される側のモチベーションなども含めて考察してみる。

公平性と試験

 一般に、「評価」に関して最も求められるのは公平性だろう。公平ではない、あるいは公平性に疑義が挟まれやすい評価は信用されず、最悪なエクスペリエンス(体験)をもたらすことは言うまでもない。それは組織や制度全体への不信にもつながる。

 「公平である」というのも単純ではない。まずは基準が明確であること、その基準が妥当であること、それをなるべく客観的に測ることができ、可能ならばそれを検証・確認できることなどが重要になる。大学入試などにおける筆記試験は、いろいろと批判も上がりはするが、このような観点においては(完璧ではないが)比較的優れている手段だといえる。もちろん、採点時の不正などは信頼・信用の根幹を揺るがすので厳しく戒められるべきであり、そこをいかに検証できるようにするかは社会的課題である。

 入試に限らず、物事への理解度や身に付いたものを評価するのであれば、試験というのは評価する側・される側の双方にとって良い方法だろう。資格の認定試験のようなものを考えると分かりやすい。ただ、気を付けなければならないことが幾つかある。その一つは、試験で評価しようとしている理解度に比べて、被評価者の理解度が著しく高いような場合である。いわばメーターがあっさり振り切れてしまう測定をしているようなものであり、被評価者のモチベーションは下がりかねない。

相対評価の落とし穴

 試験などの点数評価ではなく、日頃の業務や課題などから決める評価の場合には相対評価もよく用いられる。絶対的な評価は他者の結果に左右されないので達成度などを測るのに対し、相対的な評価は集団の中での良し悪しを測るものとなる。試験の出来が悪いからといって必ずしも評価が悪くなるとは限らないことから、絶対的な評価よりも「優しい」というイメージを何となく持っている人もいるかもしれない。

 しかしそれは逆に、どれだけ出来が良くとも他の人が同じくらいできていれば「普通」と評価され、他の人が自分を上回る出来ばかりであると「劣る」と評価され得るということでもある。これは、評価される側のエクスペリエンスやモチベーションに対して、悪い影響を生じさせる可能性がある。

 賞与の査定を例に考えてみよう。例えば、Aさんの部署は今期、メンバー全員のがんばりにより、会社の中でも良い結果を出したとする。会社全体としての業績は前年と変わらなかったので、基本的なボーナスの額は前年並である。自部署では、Aさんもがんばったが、他にもっとがんばったメンバーもおり、自分より相対的に高く評価された。そして、Aさんは、部署内で相対的に低く評価されたために、前年よりも良い結果を出したにもかかわらず、賞与の額は下がってしまった。

 Aさんにとっては、この評価結果のエクスペリエンスのほとんどは「前年よりも良い結果を出したにもかかわらず、ボーナスの額は下がってしまった」ことによりもたらされる。Aさんの視点から見ると「がんばって良い結果を出した」ことに対し、プラスの評価どころか、マイナスの評価がされたのである。それはAさんのモチベーションを大きく下げることになってしまう。こういう話をすると「周囲の他の人ほどがんばらなかったのだから当然だ。もっと奮起すべきだ」という反応をする人もいるが、その考え方はユーザーエクスペリエンスや人間の心理をきちんと考えたマネジメントというものを理解していない、と言わざるを得ない。

相対評価の設計

 評価方法の中でも、特に相対評価の適切な設計はとても難しいが、気を付けるべき基本的なポイントはシンプルである。まず、「プラスの評価」は「モチベーション」に関して論じた記事で述べたインセンティブになるということである。そして、「習熟感・上達感」についての記事で紹介したように、上達している(成長している)感覚が得られると(それがたとえダミーであっても)人のパフォーマンスは向上する。神戸大学の中村憲史氏らの研究では、心拍数のような生理的要素も「緊張時などに実際よりも低い心拍数を提示することで上昇を抑えられる」ということが示されている。

 これらのようなことを考慮すると、「相対評価においても平均がプラス評価側になるように設計すると良いのではないか」ということが見えてくる。「良い評価」が被評価者に良いエクスペリエンスをもたらすことは言うまでもない(もちろん、評価自体の信用性が失われない範囲ならば、ではある)。良いエクスペリエンスは、良いパフォーマンスをもたらす。良い結果を出した人がきちんとプラスの評価される、というのは信頼感にもつながる。

 そのため、適切な「良い評価」、すなわちプラス評価が多く出る環境は、そこにいる人々のパフォーマンスが向上する環境になっていくだろう。逆に、プラス評価を出し渋り、マイナス評価を付けがちな環境は、パフォーマンスも下がりがちな環境になり、それがネガティブフィードバックとなってしまう。

何を評価するか

 もう一つ、評価において重要なのは「何を評価するか」ということである。当たり前のことを言っているように思われるかもしれないが、人は努力した結果やそのの内容よりも、「努力している感じ(やっている感)」の方に目が行きやすく、またそちらの方が評価も直感だけで済むので簡単である。評価する側・される側に安易な満足感を生みやすいが、中長期的に見てそれは良い結果をもたらさない。

 評価する人や評価制度を決める人は、「他人の評価は難しいことである」ということと、「きちんとプラスの評価をすることは人々のモチベーションとなりパフォーマンスの向上にもつながる」ということをしっかりと心得ねばならない。組織全体のパフォーマンス向上にもつながるのであり、「評価」の責任は重いのである。

綾塚 祐二
東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻修了。ソニーコンピュータサイエンス研究所、トヨタIT開発センター、ISID オープンイノベーションラボを経て、現在、株式会社クレスコ、技術研究所副所長。HCI が専門で、GUI、実世界指向インターフェース、拡張現実感、写真を用いたコミュニケーションなどの研究を行ってきている。

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