本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、ガートナージャパンの川辺謙介 シニアディレクター兼アナリストと、日本IBMの小川真毅 理事 パートナーの発言を紹介する。
「日本企業のCXへの取り組みの多くは“結果オーライ”で行われている」
(ガートナージャパン 川辺謙介 シニアディレクター兼アナリスト)
ガートナージャパンの川辺謙介シニアディレクター兼アナリスト
ガートナージャパンが先頃、自社フォーラム「ガートナー カスタマー・エクスペリエンス&テクノロジ サミット」を都内で開催した。川辺氏の冒頭の発言はその講演で、日本企業によるカスタマーエクスペリエンス(顧客体験、以下CX)の取り組みについて苦言を呈したものである。
ガートナーはCXについて、「提供企業の従業員、チャネル、システムまたは商品とのインタラクションがもたらす1回の、または累積的な効果によって、顧客が得る認識や関連する感情」と定義している。端的に言えば、「感動的な顧客体験」である。
川辺氏によると、日本企業におけるCXプロジェクトの状況は、同社が2019年11月に調査した結果を記した図1のように、「プロジェクト進行中」という企業は全体で6.6%にとどまっている。従業員2000人以上の大手企業を見ると、その数字は18.0%になるが、それでも本格的に動き出すのはこれから、という印象だ。
日本企業におけるCXプロジェクトの状況(出典:ガートナージャパンの資料)
同氏が特に注目したのは、「必要だが未検討/進捗が遅い」との回答が全体で36.4%を占めたことだ。「つまり、必要なのは分かっているが、手を打っていないと。日本企業の優柔不断ぶりがうかがえる」と指摘した。
また、同じ調査で「役員でCXリーダーは誰か」を聞いたところ、営業担当役員が39.6%でトップとなり、社長/経営者自身が10.6%、CMO(最高マーケティング責任者)が5.8%となった。ただ、トップに続いて2位と3位になったのは、「役員やリーダーはいない」(19.3%)、「役員でない特定のリーダー」(16.4%)。同氏は、「CXリーダーの重要性を認識していない企業がまだ相当数に上る」と危機感を募らせた。
こうした状況から、同氏は「日本企業のCXへの取り組みの多くは、属人的な要素が強く、体系的に取り組めていない。“縁の下の力持ち”的な目立たないリーダーによって下支えされ、“結果オーライ”で行われている」との見解を示した。冒頭の発言はこのコメントから抜粋したものである。
同氏はその上で、苦境を乗り切るCXリーダーの心得として、表1のように「顧客」「テクノロジ」「リーダーシップ」の3領域においてそれぞれ3つのキーワードを挙げた。例えば、顧客領域の「傾聴」では、「VoC(顧客の声)を集約し、業務に組み込む」といった具合だ。
苦境を乗り切るCXリーダーの心得(出典:ガートナージャパンの資料)
同氏が指摘するように、「結果オーライ」ではなく、しっかりと科学的手法に則ったCXを推進したいものである。